彼はその辺の適当なカフェに入っていった。
明るいパステルカラー調の店内には女性客がいっぱいいて、どう見ても男二人連れは浮いている感じだった。
「別に、無理に食べなくても・・・」
セフィロスは思わず言うが、ヴィンセントは気にせずに、二人、と言って席に案内してもらっていた。
何となく周りの視線が気になる感じで席に座る。
「時には気分が変わっていいだろ。」
ヴィンセントの口元が少し笑ってセフィロスが好きな顔になる。
ちょっと落ち着いた彼にヴィンセントはメニューを渡した。
日がよく通る店内には、正午の透き通って賑やかな光が手元に届いてくる。
「このメニュー全部腹にたまる気がしない。」
銀髪がさらりと動いて文句を言うと、そうだな、とヴィンセントが言ってくすくす笑った。
その辺の店員に声をかけて、彼がお腹いっぱいになりそうなものを大盛りで、とヴィンセントが頼んだ。
「その人がおなかいっぱいになるそうなものを大盛りですか?」
妙な注文に固まっているウェイターを見て、にやにやと笑うセフィロス。
「私は同じものを。別に多くなくていいから。」
ヴィンセントが付け加える。
「俺は大盛りな。腹が減る仕事なんだ。」
そういう彼はどこまでも奥が見通せそうな翡翠色の瞳と、きれいに流れる銀髪が目立って、めったに見ない組み合わせに目が引き付けられてしまう。
ウェイターはちょっと銀髪に見とれていた感じだったが、慌てて、分かりました!、と言って奥に引き取っていく様はかなりセフィロスをおもしろがらせた。
「セフィ、そんなに笑ったら人が悪すぎるぞ。」
ヴィンセントが声をかける。
「こういうのってさぁ、ザックスとかクラウドと一緒にやったりするんだけどヴィンと一緒にするのが一番面白いわけよ。」
だって、相手がヴィンの場合意外っぽくて一番驚くからな、と笑うセフィロスにヴィンセントは一緒に笑ったものかどうか少し迷った。
程なく二人の前に置かれたのはタコスの具に米が混ざっている食べ物だった。
「タコスライス?」
ヴィンセントが疑問系で観察していたが、セフィロスはさっさと口に持っていって、うまいからさっさと食えよ、とヴィンセントにアドバイスした。
セフィロスがサラリーマンらしく、ガツガツ食べるのを見ながらヴィンセントはセフィロスをさり気なく観察するように目を向けた。
ーまあ、おとなしくしていればちょっと似ているけど・・・
でも、だからといって何が変わるんだ・・・と、ヴィンセントは自分の考えを修正して、彼から目をそらして、食事を食べ始めた。


食後のコーヒーを口にしながらセフィロスが口を開いた。
「最近何で会社にこないんだ。」
子育てが忙しくて・・・と言いそうになるのをやっと押しとどめた。
「変な事件に関わってるんだ。もうちょっと、時間がかかりそうだから。」
ちらりと視線を投げると、セフィロスの目は次の言葉を集中して待っている様にヴィンセントを見ている。
「だから、セフィも気にしないで家に来るといい。」
と付け加えた。
「ふーん、じゃあ今日行こうかな。」
試すようなセフィロスの言葉に、何も用意できないけどな、とヴィンセントがあっさり言った。
「別にお前がいればいい。」
さりげなく(?)セフィロスが言ったのをヴィンセントは聞いていなかったのか、無視していた。
「お前、ちょっとぼけて無いか?」
セフィロスが無反応のヴィンセントの方へ身を乗り出して、すっと顔を両手で包む。
ヴィンセントがびっくりして手を外そうと顔を引いた。
二人の様子に気付いてしまった周りの女性客は興味津々な感じで、ちらちらと視線を投げているのが感じられる。
「確かに、最近変な気がする。っていうか原因は何となく分かっているんだが・・・」
また物思いにふけっている感じで、ヴィンセントがセフィロスの手を外すとコーヒーを口元に持っていった。
周りではランチの客が少しずつ減っていって、目の前の白い柱にかけられているファンシーな時計がそろそろ13時を過ぎを差していた。
ヴィンセントが伝票を手に取って、
「セフィ、何時頃くる?」
と聞いてくる。
「多分今日も暇だから、18時には行けるぞ。」
じゃあ、家に入ってて、と言い残してヴィンセントは先にカフェを出た。
ー原因が分かってるけど、解決できないって何なんだろうな。
セフィロスはヴィンセントの言葉を反芻していた。
警察署の殺人課の中に入ると、今回の事件を担当している刑事がわんさと集っていた。
別にヴィンセントは来なくてももよかったのだが、一応情報収集と様子見に時間を取ったのだ。
警察は今では被害者の出た地域一体に非常線を張って、次の被害者が出ないように、最悪でも現行犯で容疑者を確保しようと動いていた。
殺風景な縦長の打ち合わせ室の中に、事務的な机と椅子が目の前のホワイトボードとスクリーンに向かって10列以上並んでいる。
目立たないようにそっと後ろの方へ座って恒例の現状報告会&これからの方針会議が始まるのを待った。
「彼女は話せるようになりましたか?」
この前家に来た警官がヴィンセントに気付いて話し掛けた。
「もうちょっとだな。この前自分から名前を教えてくれた。」
「名前はなんて言うんですか。」
ルクレツィア・・・と彼に伝えたが、その言葉をどうしても意識してしまうのが分かった。
ーなんか今回はすごい・・・まずい状況な気がする・・・
ただでさえ優柔不断な傾向があるのにどうしよう、とちょっと自分に呆れ、手元の資料を気を紛らわせる為に繰る。
会議が始まって、今までの捜査状況が詳しく説明されていく。
ヴィンセントは聞いてはいたのだが、頭の半分ではぼーっと考え事をしていた。
「ではこれから予想被害者像と、プロファイリングを使った被疑者像を説明します。」
はっと我にかえって、今までの説明が全部頭に残っていないことに気付いた。
ヴィンセントは今日はもうダメだな・・・と諦めたように気を少し抜いた。
19時前にセフィロスがヴィンセントの家に着いて、ティファがもう帰らなきゃと言って子供と三人っきりになったのが、20時頃だった。
女の子は大人しくソファに座り、二人の間には挨拶も会話も未だに生まれていない。
もちろん、乳児なんかはもう寝ていて、セフィロスには既に存在すらも認識されていない。
ーいいかげん連絡が来てもいいよな。
取りあえず、今は子持ちなんだしと思っていたら携帯が鳴る。
セフィロスが携帯に出ると、女の子が興味深そうにセフィロスを見た。
「はあ?なんだよ、それ。やっぱヴィンぼけ過ぎ。」
セフィロスの苦情の声が部屋に響き、ルクレツィアはセフィロスの方へ寄って行った。
「話し終わったら、電話変わって欲しい。」
はっきりと彼女がセフィロスに話しかけて、思わず携帯を渡す。
「早く帰ってきて。」
一言言ったルクレツィアが、なにもセフィロスには言わずあっさり電話を切ったが、その1時間もしないくらいにヴィンセントはヴァレンタイン家の敷居をくぐっていた。


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