「ティファ、起きろよ。」
妙な捕り物が終わって、クラウドがまだ寝ているティファを起こす。
セフィロスが声をかけた時に一瞬目が醒めたはずの彼女だが、なかなか起きられなかった。
「ごめん、なんか身体が重くって。」
彼女がやっと起きる迄の間に、クラウドはお嬢さんの方へ様子を見にいくと、安らかに眠っているようだった。
「すみません。起きて下さい。」
少し今の様子を言っておこうと思って、扉の外から大きめにノックして彼女を起こそうとしても反応がない。
助けを求めるようにティファの方を見るとやっと起きてきた。
「私が起こしてみるね。」
お嬢さんの寝室の扉を開けて、まだあくびが出ながらもティファが言った。
「眠いの?」
「うん。セフィロスにあんなに叩き起こされたのに、なんでだろ。」
ベッドの側に行ってお嬢さんに声をかけても全然起きないので、軽く揺さぶったところに屋敷の主人が入ってきた。
「お嬢さんが全然起きないんですよ。」
心配そうに言うティファに、主人は娘の様子をじっくり見る。
「睡眠薬を飲んでいるかもしれないな。」
「えっ?」
ティファの一瞬狼狽した様子を気を止めながらも、彼はまっすぐに寝室の中にあるキャビネットの一つを開けた。
「量が減っていない・・・というよりも、新しく頼んでいるな。」
日付けを確認して元通り戻した。
「眠れなかったって事ですよね。」
ティファに、博士が微妙な表情で軽く頷く。
「あの子はいつもそうなんだ。今日はもう遅いから、あなたも寝なさい。」
追い出されるように、彼女の寝室から出たティファ。
これからどうしようと迷って視線をさまよわせるとクラウドが目に止まった。
「もう、いいって。」
待っていた彼にティファが言う。
「そっか。」
クラウドは、さっさとその場から自分の部屋に戻ろうとした。
「ちょっと!心配じゃないの?色々。」
ティファがクラウドに文句を言う。
「ティファ、お嬢さんも屋敷の御主人も心配ないよ。」
クラウドは懸念が晴れないティファを無理矢理お嬢さんの部屋から離した。
一歩部屋を出た先の廊下は電気が煌々と点っていて、真っ暗な窓の外とは対照的な風景を写しだしている。
「多分この屋敷の主人は、聞かれたくない事情があるんだと思う。」
一言言って、クラウドはティファを部屋に送ってから、自室へ帰った。
「昨日の、何だと思う?」
セフィロスが、伸びをしてヴィンセントの正面であくびをしながら言った。
「っていうか、セフィ昨日よくあれに気付いたよな。あれこそ想定外だよ。」
「要するに、俺がやつらにとってノーマークだったってことだろ。」
ヴィンセントがノートにメモをしながら彼の返事を聞いていた。
昨晩は3時近くまで屋敷とその周辺を捜索したが、今いちはっきりした証拠も見つからず、夜が明けてヴィンセントが起き出した後再度周りを見回しても結果は同じだったのだ。
不審者が外に逃げ出した証拠は全然見つからずに、次の対策を立てるのに朝食後の休息をとっているところだ。
全くあの女も、親父も警官も何がなんだか・・・と呟くセフィロスの横で、ヴィンセントが彼に声をかけた。
「多分、大体分かったから。でも、誰に犯人を捕まえるか頼むのかが問題だ。」
は?、とセフィロスが身体をソファから起こす。
「私がミッドガルに帰って脇を固めてもいいけど、あのお嬢さんも心配だから。」
とノートを閉じるヴィンセント。
「ちょっと、根拠を少しは話せよ。」
セフィロスが、ヴィンセントが書いていたノートを取り上げて中身を見たが全然それらしい内容は書いていない。
しょうがないので、ノートを返して彼を見つめる。
「セフィに頼んでもいいかな。」
ヴィンセントが言う。
「いいけど、訳をちゃんと言えよ。」
不満そうにぼそっと言った言葉は、小春日和の窓から差し込む明るい日の光の中にとけていった。
「言っとくけど、推理だけでまだ根拠になる証拠はないからな。」
ここに来てはじめて見られたスッキリした彼の笑顔と言葉に、まあこれだけでも来た価値はあるか、と思っいながら真剣に彼の話を聞くセフィロス様でした。
「部屋の中に彼女が一人っきりなら全てはうまく話がつながるんだが。」
その日の午後、警官が入手した資料を見ながらヴィンセントは話をしていた。
お嬢さんが襲われた部屋には、壁の上の方に血まみれの手形がついていた。
「この手形がうまく説明できませんね。どう見ても彼女がつけられる高さよりも、10cm以上高いですし、彼女の手よりもかなり大きいですし。」
しかも、この血は彼女のものと別の人間のものが混じっています、と警官は資料を見せながら言った。
「彼女は、誰が部屋にいたのか、またはいなかったのか覚えていないのか?」
ヴィンセントも調書をめくりながら呟く。
「かなりひどい怪我で・・・医師の診断書がついてますね。」
警官がそのページを指し示した。
「事件の日の屋敷にいた人間の行動がこれか。」
ヴィンセントはそれも抜き出す。
「屋敷の主人、娘、守衛と家政婦。それとクラウドとティファか・・・。こう見るとあからさまにクラウドとティファが怪しいな。」
ちょっと笑って、ヴィンセントが言った。
「そう思ったから、警察は二人をここに勾留しておいたんじゃないですか?」
警官が答えた。
「でも、疑いはもうはれてるから大丈夫だろ。」
セフィロスがフォローして、本題に戻る。
「この現場検証を見ると、誰かが隠れていた後があるって書いてありますね。」
警官の言葉にヴィンセントが質問した。
「この部屋は重要な書類や実験機具を保管している所らしくって、人が隠れられるくらいの大きいロッカーとか、棚とかがあるんですよ。仮眠出来るようにソファベッドと毛布もあるし。」
「その跡がついた時間は?」
ヴィンセントが続ける。
「調書には書いていないんですが、同じ日だったと思われます。」
ー殺されそうになった同じ日に現場に侵入者がいて、しかもその侵入者が誰かもわからないし、そいつが犯人かも証拠が見つからない。
彼の言葉を頭の中で整理してからセフィロスが、口を開いた。
「誰かが隠れていたとして、扉を開けた時は彼女しかいなかったんだろう。どこか、抜け道とか隠し扉とかないのか?」
「でもこの部屋、窓は鉄格子だし、建物全体が石造りで地盤もすぐに下に岩盤がある所だから、地下への抜け道もないだろうし・・・」
もう一回見てみようか、とヴィンセントが呟く。
「いえ、この調査は結構綿密にやっていると思います。この調書を作っている警官は、ミッドガルでも有数の事件を解決しているしっかりした方です。」
と警官が言う。
「じゃあこの書類にある事実を全部正しいとして考えると、この女性を襲った人間は部屋の中で研究資料を纏めていた彼女を待ち伏せていたが、襲われた瞬間に彼女が大声を出して助けを呼び、父親や守衛やクラウドやティファが駆け付けて唯一の出入り口の扉を壊して開けたら、何故かいなかったと。」
なら襲った奴はどこにいったんだよ、とセフィロスがヴィンセントに言った。
「さあね。」
答える彼の横で、警官が口を開く。
「でも、何でこんな周りに人がいる時に襲ったんでしょうね?普通は人がいない時とかを選びませんか。」
「それも不思議だな。しかも目的も良く分からないし、もし何かの理由で彼女の口を塞ぎたかったらまた襲ってくるかもしれない。」
セフィロスの言葉にヴィンセントが口をはさむ。
「じゃあ、やっぱり護衛をつけないと。あと・・・、」
ヴィンセントが言い淀む。
「本当はもうちょっと彼女が色々話してくれると助かるんだが・・・。この調書を見る限り私達が聞いた話と大差無い気がする。」
口を閉じて、調書の書類も閉じるヴィンセント。
ーもしかして、彼女が犯人を言いたくないんだろうか?
と自問自答した。
離れの扉がノックされて、家政婦が食事をお持ちしましたが、と声をかけた。
時計を見ると既に15時だった。
3人で顔を見合わせて、セフィロスがそう言えば腹減ったな、と言う。
「ありがとうございます、お願いします。」
感謝の笑顔で、ヴィンセントが迎え入れると家政婦さんはちょっと赤くなって、持ってきたサンドイッチと飲み物を手早く置いていった。
「ティファは今どこにいるんだ?」
「襲われたお嬢さんについてる。」
ヴィンセントが即答した。
「そうしたら・・・」
セフィロスがヴィンセントにちょっと耳打ちして、彼は少し目を見開いがた、OK、と面白そうな表情で了解した。
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