降りた階段の先は真っ暗で、ヴィンセントは手探りでスイッチを探した。
ぱっ、と明るくなると目の前にもう見慣れてきた屋敷の風景が目に入る。
ー今夜の訪問者は何の為にきたんだろうな。
考えながら、廊下を進んで屋敷の端まで着くと突き当たりの窓を開いた。
ー誰かが降りた形跡は・・・分からないか。
部屋からの灯りでは十分外は見えない。
「やっぱり逃げたと思ってるのか。」
後ろからセフィロスが懐中電灯を手にやってきた。
「だって、一番怪しい所からいなくなったからな。」
どうも、と彼から懐中電灯を受け取って窓から身を乗り出して外を照らす。
「逃げた証拠がなかったらどうするんだ?」
丹念に土の痕跡を見るヴィンセントに言った。
「ないと思うけど念のため・・・っていうか、逃げてない気がする。」
「じゃあ、俺が追いかけた奴はどこに行ったんだよ。」
「ほんとに・・、人がいたのか?」
めぼしい跡が見つからずに、窓から振り向いてヴィンセントが聞いた。
「腕、掴んだんだぞ。」
「お嬢さんじゃなかったのか?」
「あの女だったら、何で逃げるんだ?大体全然背格好が違うだろ。」
「まあ、そうだな。」
懐中電灯を消して、少し考え込むようにヴィンセントは窓枠に寄り掛かり腕を組んだ。
壁に寄り掛かって、セフィロスもヴィンセントの方を見る。
「お前、疑ってるな。」
ちらりとセフィロスへ視線を流したヴィンセントに言った。
「・・・・・・別に。」
真夜中に煌々と光る屋敷内の灯りの中佇む二人だった。
「この屋敷のおやじだって見てるぞ。」
「だから、疑ってないって。」
「私だって正面から追いかけてたんですから、侵入者はいましたよ。」
突然遠くから会話に加わった声に、二人とも目を向けた。
ミッドガルからきた警官が側に来ていた。
「追いかけていた時、どこで人影が消えましたか?」
ヴィンセントが質問する。
「最初は二人の人影が見えて・・・その後電気が消えたじゃないですか。で、ぶつかったのがセフィロスさんで。」
「誰が灯りを消したんだ?」
さあ、と反射的に警官が腕を広げた。
「きっと、誰でも消せたんじゃないか?スイッチは皆近くにあっただろ。」
ヴィンセントが畳み掛ける。
「そうしたら、電気を消した人が侵入者の協力者ってことになりますね。」
警官が結論した。
「まあ、そう考えられることもない。」
セフィロスが答えてヴィンセントとちらりと目を見合わせた。
「可能性としては見張りに立っていなかった人が怪しいのではないですか。」
黙っている二人に警官が言葉を続ける。
「そうすると、ティファは寝てたし・・・あの女か?部屋の中にいたかどうかも確認してないしな。」
セフィロスの分析に、ヴィンセントが思わず口を開いた。
「セフィ、あの女(ひと)が犯人に協力してるって言いたいわけ?」
「可能性の話をしてるだけだ。」
「あんなひどい怪我をしているのに、あり得ないと思うんだが。」
ヴィンセントが少しあきれたように言った。
「じゃあ、ヴィンは誰だと思うんだよ。」
突っかかるセフィロス。
「だから協力者なんていないし・・・、第一誰もいなくなっていないんじゃないかな。」
ヴィンセントの結論に警官が驚き、セフィロスはため息をついた。
「言ってる意味が分からないな。じゃあ俺が追いかけていた奴はどこに行ったんだよ。」
「わからずやにはわからないかもな。」
ヴィンセントがくすりと笑う。
「私もわけがわかりません。」
警官もセフィロスに同意した。
ヴィンセントの謎の言葉に、二人とも答を待っている。
「ところで、上は大丈夫なのか?」
彼の言葉に答えずに、ヴィンセントがきいた。
「彼女の父親がついているので、大丈夫だとは思いますが・・・ちょっと見てきますよ。」
警官が急いで立ち去った。
その様子を見ながら、セフィロスはさっきのヴィンセントの答を促そうと彼の目を見た。
お互いの呼吸さえ聞こえそうな、静かな夜中の屋敷だ。
「ふぁ・・・・・眠っ・・・。」
彼がいなくなったのを見計らって、ヴィンセントが大あくびをした。
「おい、まだ1時だぞ。お前あくびしたくて、あいつを追い払ったのか?」
「ちょうど、うとうと寝ようとしてた時にセフィが連絡してきたからさぁ。眠くて・・・。私はもう寝るよ。」
じゃ、と来た廊下を戻って自分の部屋の方にヴィンセントは向かった。
「部屋調べなくていいのか?何か見つかるかもしれないぞ。」
あくびをしながら、前をすたすた歩くヴィンセントをセフィロスが追って話し掛ける。
「セフィやっといてよ。こんなに眠くちゃ仕事にならないからさ。」
階段の途中まで上がって、踊り場で追いかけてくるセフィロスを少しだけ待った。
「そんな眠くて俺が侵入者を追いかけてる時、ちゃんと起きてたのか?」
セフィロスが踊り場にあと一歩の所に来た時、ヴィンセントは続きの階段を登り始める。
「さすがに起きてたよ。でも、」
先を進もうと手すりに置いてあった彼の手を、追い付いたセフィロスが素早く掴んで止めた。
「あと5分遅かったら、睡魔に負けてたかも・・・。」
手を掴まれて後ろを振り向くと、すぐ下の段にセフィロスがいた。
「それ、ヴィンにしちゃおかしいだろ。こんな時に眠気がくるなんて。」
「確かに・・・、あんまり無いな。」
考え込むように口を開いて、また大あくびをする。
「ほんとに眠い・・・、ここでも寝られそうだ。」
その場で目を閉じて少しバランスを崩した所を、セフィロスが後ろから抱きとめる。
「何か、飲まされたんじゃないか?夕食は俺と一緒だったから、その後とかに。」
「どうだったかな・・・。」
ヴィンセントが薄目をやっと開けて、思い出そうとしている。
眠いせいかセフィロスがそっと彼の頬にキスをしたのにも、気付かないようだった。
「部屋で・・・寝るよ。」
そのまま抱き上げようとした動作に気付いて、ヴィンセントが階段を上がりだした。
階段を登り切って、セフィロスが部屋のドアを開ける。
素直にそのまま、入ろうとしたヴィンセントがの目が一瞬ぱちりとまばたきした。
「ここ、セフィの部屋じゃないか?」
「危ないから一緒の方がいいだろ。」
そのまま部屋に入れようとした彼の手を、ヴィンセントは思いっきりつねっていた。
「危ないのはどっちだよ?大体お前は、これからお嬢さんの部屋を検分するんだろ。」
セフィロスが、いたっ、とつねられた手を離した隙に、すぐ隣の自分の部屋のドアをヴィンセントは開けた。
「今日警察の資料が揃ったから、明日それを検証する。」
あくびをしながら、全く油断も隙も・・・と言いつつばたん、とドアを閉める。
ー何でこういう時に、ヴィンは頭がはっきりするんだよ。
ドアの鍵をかける音がして、はあ〜、とセフィロスはため息をついた。
ーでも、ヴィンが何で眠かったのかは調べておかないとな。
問題のお嬢さんの部屋へ向いながら、セフィロスの顔は真剣なまなざしになっていた。
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