その夜、セフィロスがこの屋敷の主人から聞いたことと、ヴィンセントの入手した資料の中身を反芻していると不審な物音がした気がした。
部屋は中央にベッドと、テーブルとチェア3脚ベッドから少し離れた窓際にある。
部屋の配色はクリーム色に統一されていて、窓にかかっているカーテンも中世風のタペストリーの絵がうっすら透けて見えるクリーム色だ。
席を立ってカーテンを開け、ベランダに出たがこれといって怪しいものは見られなかった。
窓の外は真っ暗で2階の部屋から見える景色は屋敷のすぐ外にある庭と、それに続く門、離れの研究施設もそれとなく門の側に見えた。
ベランダから屋敷の方を見ても何も無い・・・と思ったが、例の被害者の娘の部屋の窓に何かかかっているのが分かった。
ーはしご・・・か?
取りあえず、確かめに部屋を出てみることにした。
その日の夜のお嬢さんの様子はおかしかった。
彼女がリラックスできるようにとティファは側にいたのだが、何かそわそわしていて落ち着かない。
退出しようかと口を開こうとしたら、
「今日は部屋で夕食を取りたいのだけれども、御一緒して頂けないでしょうか。」
と非常に断わりにくい感じで頼んできた。
一緒に食事をしながら何か話があるのかと思いきや、普通に食事をしてそのまま夕食が終わる。
「家政婦さんが作ってくれるお食事美味しいですね。」
ティファが話し掛けるとにっこり笑って
「彼女は食べる人の好みをいつも考えて料理を出してくれるの。」
と嬉しそうに答えた。
おなかがいっぱいになって、眠くなってきたが、お嬢さんがまだ起きているので隣で頑張るティファ。
「いつもはこの時間は何をしているんですか?」
「大体研究棟にいるわ。父の手伝いをして。日によるけど終わるのは9時か10時頃ね。」
そうですか、と相づちを打つが眠くてたまらない。
耐えられなくて、
「すみません、先に寝ますね。」
とティファは言ったが、彼女が心配なのでそのまま彼女の部屋の控え室に横になった。
30分程してティファが寝たことを確認した彼女は、安心したように息をついて机の引き出しから便せんを取り出し机に置いた。
セフィロスがひらりと部屋を窓から飛び下りて、目的のはしごがかけてある部屋につくとそこはまだ灯りがついているようだった。
迷わずはしごに手をかけ、慎重に上に登る。
自分が居ると言うことを悟られないように、影が写らないようそおっと窓の外から窺うと中に絶対女性じゃ無い風袋の人間が歩き回っていた。
ー誰だ・・・こいつ。
もしかしたら、彼女がなかなか口を割らない原因かもしれないと思い、捕まえようと思う。
そのまま窓から入ろうと思ったが、思いとどまり、
ー確実に捕まえるか。
と中の様子を少し観察した。
部屋の中は作り付けの明かりが最弱の光度でほんのりと灯っており、足下に別にランプを持ってきて照らしているようだった。
その窓の向こうの人間がデスクに座って、書き物を始めたのを確認して、すばやくはしごを降りたセフィロスは小声でヴィンセントに電話をしていた。
ー分かった。3分後だな。
セフィロスは携帯の時計を見て、きっちり3分待ち始めた。
ヴィンセントは連絡をもらって、すぐに準備を始めた。
クラウドとミッドガルから来た警官と屋敷の主人、守衛に連絡をとって彼女の部屋から脱出できるルートを塞ぐ。
屋敷のニ階にある彼女の部屋は目の前に一本道の廊下があり、その両端に窓のある端と非常口がある端がある。一本道の廊下は途中にもう一本の廊下でつながっており、その先は階下へ向かう階段と突き当たりは窓がある。
屋敷事体はかなり広く、彼女の部屋から別の廊下につながる分かれ道までかなりあり、全速力で走っても何秒かの時間がかかる。
その廊下には年代物の壷やら、置き物やら、壁には大きな絵画も設置されており、何かのはずみで壊してしまったら一瞬ひるんでしまいそうな、高価そうなものばかりが置いてあった。
事情をそれぞれに手短に話して、待ち伏せ場所を割り振る。
長い廊下の一方の端はヴィンセント、その向こうは警察官、角を曲った廊下にはクラウドと守衛さんがいて、二人で廊下と階段を塞ぐ。
屋敷の主人は娘のドアの前で待ち伏せて、外から出てきたらすぐに取り押さえられるようにスタンバッていた。
「ティファはどうしたんだ?」
ヴィンセントがクラウドに聞く。
「お嬢さんと同じ部屋にいるはずだけど・・・」
どうしたんだろう?と呟くクラウド。
ー絶対何かあったんじゃ・・・
ヴィンセントは若干心配になったが、今の時点で彼女の安否を確認する時間はない。
「人の姿が見えたら、そっちの方には向かわなくなってしまうから、なるべく待ち伏せの時は隠れていて下さい。」
待ち伏せなんて始めての守衛さんに注意して、みんなが定位置に向かう。
カーテンに隠れたり、曲り角に身を潜めたりして人の動く気配がなくなったことを確認すると、ヴィンセントは外で待っているセフィロスに連絡した。
はしごの下で待っていたセフィロスには待ち伏せの3分は長かった。
よっぽどはしごを登って、窓の外で待っていようかと思ったが、万が一部屋の中の人間が3分経たない前におりようとして、気付かれると元も子もないので、上を見ながら我慢する。
月もでていない暗い庭は、眼前の土に草が生えているのがぼんやりと分かるくらいで何も見えない暗闇だ。
静寂が耳につくくらいに鬱陶しくなってきたとき、携帯が微かに振動した。
ー準備OKだ。
はしごのきしみも大きく聞こえるくらいで、気のせいだと思いながらも注意して静かに登って行く。
と、あと少しで窓につくくらいで、部屋の中の明かりが消えた。
ー気付かれた?
あり得ないとは思いながら、窓に手をかけると少し開いている。
ーラッキーだな。
暗闇に目を慣らして部屋の中に目を凝らすと、最初に見た机の側に黒い大きな影が見えた。
ーあの女はいないな。
素早く目を走らせて、背格好がそれらしいのが見えないのを確認すると、音を立てないようにそっと部屋の床に足を降ろした。
相手が気配に勘付いて振り向く前に捕まえようと、部屋に入ってすぐに男の側に近づき腕を掴んだ。
「お前誰だ。」
顔を見てやろうとぐっと引き寄せる時に、激しい抵抗で腕を振払われた。
机の側にあったドアではなく、続き部屋の方へ男は向かう。
ーちっ、別方向だ。
後を追って入ると、ティファがぐっすり眠っていた。
男は続き部屋のカーテンの影にあったドアを開けて廊下に出ようとしていた。
「ティファ起きろ。あの女大丈夫か見とけ!」
どなって起こして、そのままドアを出た。
セフィロスの言葉に飛び起きるティファ。
男は屋敷の主人が待っていたドアよりも、2〜3m先の所からまっすぐ警官が待っている方向へ向かっていった。
男の姿をみた主人が彼を追いかけて、男は背後の人間を巻こうと思ったのか、まっすぐの廊下をまがって行った。
「そっちはクラウドいるから。」
後ろから追い付いてきたヴィンセントが囁く。
ふっと廊下の電気が消えて、逃走者が曲った廊下から戻ったのが分かった。
「クラウド、電気つけろ!」
セフィロスが怒鳴って、直線の廊下を走る。
気配からして、もう少しで捕まえられるという距離で勢いよく人とぶつかった。
「うわっ!」
しりもちをついたセフィロスを追い抜いて、屋敷の主人が廊下の端まで走って行った。
ぱっと電気がつく。
「お前か・・・」
ミッドガルから来た警官も、痛そうに額をさすっている。
「あいつはどこいった?」
「私も、向かってきた人を捕まえようと来たんですよ。」
警官がいう。
「消えた・・・?」
廊下の端まで行っても人影が見えなかった屋敷の主人が呟いた。
「ヴィン後ろは?」
セフィロスが振り向くと、ヴィンセントが首を振った。
「守衛さん、誰かそっちに逃げた?」
クラウドが階段の辺りで待機していたおじいさんに聞く。
「誰も、来てませんよ。」
「その辺の部屋に隠れているのでは?」
警官が続けた。
「この突き当たりの部屋は見ましたよ。物置きだし、隠れる所も逃げられる窓もないんです。」
主人がドアを大きく開けた。
中はがらんとしていて、物置きという程のものを置いている訳でもない。
身体をかくせるような収納も、段ボールが積み上がっている訳でもなく、セフィロスはよく中を点検してから出てきた。
みんなも手分けして、家捜しをしたが怪しい痕跡や証拠はこれといって見つからなかった。
「人が出てきたのは見ただろ。」
確認のようにセフィロスが言うと、周りみんなが頷いた。
「こっから飛び下りてはいないですよね。」
主人の方を見て確認すると、大きく頷かれた。
「一回曲ったが、戻ってきた。」
クラウドと警官が頷いた。
「後ろには戻っていない。」
ヴィンセントが、こっちに来てはいない、と答える。
「電気が消えた時に、逃げたんじゃない?」
クラウドが口を挟んだ。
「3秒もなかっただろ。こんな囲んでいるのに、逃げだせるか?」
普通は無理です、と屋敷の主人が代わりに答えた。
「ほんとに煙りにでもなったのか・・・?」
セフィロスが考えている途中で、ヴィンセントが主人に話しかけた。
「お嬢さんに何かあったかもしれないので。」
屋敷の主人はすぐに彼女の部屋へ消えて行った。
「ティファ、起こしといた。」
セフィロスがヴィンセントに言う。
「こんな緊張感のある時に、寝ていたっていうのも変な話だな。」
ヴィンセントが答ながら、まっすぐの廊下の正面をじっと見ていた。
「何か見えますか?」
警官が興味深そうに、ヴィンセントに話し掛ける。
「いえ、特に何も・・・。」
ヴィンセントは凝視していた一点から目を逸らせて、取りあえず階下を点検しに階段を降りて行った。Back/Next
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