「あなたに会いたいと言っている人がいます。」
帰ってきた二人を守衛のおじいさんが迎えて、ヴィンセントを見て言った。
「こんな所まで誰が何をしに?」
思わず口をついて出た言葉に、
「警察の方ですよ。」
と守衛さんが案内しながら告げた。
一階の奥の方にある応接室に入ると、既にクラウドとティファ当人の相手をしている。
ー良く知ってるやつだったな。
相手の顔を見たセフィロスがヴィンセントにさらりと耳打ちした。
「すみません、突然。」
この季節は使われていない暖炉を、囲むようにして配置されている応接セットに、ヴァレンタイン邸を何度も訪問している担当警官がいて、彼の顔を見ると挨拶の為に腰を上げた。
「何でここが分かったんですか?」
びっくりして挨拶もそこそこに、ヴィンセントが彼に言った。
「今、ミッドガルの殺人事件はかなり膠着状態でして・・・。上司からヴァレンタインさんがこちらにいるから、一緒に捜査しろと言われまして。」
困ったように顔を見合わせる二人を見て、彼は申し訳無さそうな顔をした。
「ヴィン、誰かに言ったのか?」
「一応本部の資料室を使わせてもらった人には・・・。別の方にちょっとかかり切りになるけどすぐ戻る、とは。」
でも、そこから流れたのかもしれないな、とヴィンセントが呟いた。
「あんたの上司は何か期待しているかも知れないが、こっちの事件を調べたからってお前の方が解決するとは限らないからな。」
警官をまっすぐ見ながらセフィロスが付け加えた。
「いいんです。下っ端の私は取りあえず可能性のありそうな所に行け、と言われてここに居るんですから。」
取りあえず邪魔では無さそうだと言う雰囲気に、気を取り直した風だった。
「そういわれるのもムカつく。」
とぼそっと呟くセフィロス。
それが聞こえて苦笑いをした警官の顔に気付いてしまい、
ーセフィロスって、こんな大人気ない上司だっけ?
と普段とは違う反応に、思わず突っ込みを入れないではいられないクラウドだった。


「それだったら、ちょっと入手して欲しい資料があるんですけど・・・」
気を取り直してソファに座ったヴィンセントが、事件を捜査した地元警察の資料を依頼すると、いいですよ、と二つ返事で引き受けてくれた。
「あと、ルクレツィアの尋問はいつ頃終わります?」
ヴィンセントのさり気ない質問した。
「あの子は何か見ていたと思うのですが・・・。何か思い出しそうですか?」
「事件の事は忘れたいと言っていますが。」
ヴィンセントが冷たく答えた。
ー俺には思い出したいって、言ってたけどな。
ミッドガル中央駅で、ホームにしゃがみ込んで事件の事を一生懸命思い出そうとしていたルクレツィアを見ていたセフィロスだったが、この場ではやぶ蛇になりそうだったので口を噤んで興味無さそうな顔をしていた。
「実は・・・彼女の叔母夫婦からは、納得いくまで好きなだけ尋問していいと言われているので、しつこいかと思いつつ訪問させて頂いていたんです。」
ヴィンセントの眉がちょっと上がる。
「まだ10歳なんですから・・・、これ以上は無理です。大体、何を根拠にその人たちはそんなことを言っているんですか。」
珍しく人を責めるようなヴィンセントの言葉に、おやおや、と思いながらも壁に寄り掛かって会話の先を耳をダンボにして聞くセフィロスだった。
「いや、私の上司にそう伝えていたようで、私が直接聞いたわけでは・・・。」
ヴィンセントの勢いに、思わず言い訳する。
警察官の困ったような表情に、言い過ぎたのかと思ったのか、
「すみません。あなたのせいではないのは、分かってるんですが・・・。」
とヴィンセントが言い淀んだ。
「ヴィンがあいつを甘やかしてるから、いつまでもあんなんじゃないのか?」
セフィロスが、ぽん、と口をはさむ。
「それは、ちょっと甘いかもって思う時もあったけど・・・。しょうがないだろ、事件の後も色々あったんだから。」
弟もあの夫婦に渡さないで、一緒に引き取れば良かったかなぁ、と余計なことを考え始めている。
「あの・・・、もし、ヴァレンタインさんが正式な保護者になるんだったら、私も上司に言い返しやすいんですが。」
ヴィンセントに助け舟を出すように、警官が言い添えた。
「正式な保護者って?」
きょとんとした表情のヴィンセントに、
「あのガキを養女とかにして、引き取るって事だよ。」
とさらりとセフィロスが回答した。
その言葉に頷く警官と、びっくりしたヴィンセントはセフィロスをじっと見た。
「それは・・・、ルクレツィアがいいって言わないとだめじゃないのか?」
「それは、そうだろうな。」
ーそんな話がでたらあのガキ、いいって言いそうだけどな。
でも、そこを助ける気は俺にはさらさらないぞ、と頭の中でその場にいないルクレツィアに言う。
「じゃあ、私は地元の警察にコンタクトをとってみますね。」
一通り話し終わったと見たのか、考え込んでいる感じのヴィンセントに軽く挨拶して、警官は応接を出て行った。
「じゃあ俺たちも、もういいよな。」
お客が出ていったのでクラウドとティファも部屋を出ていく。
ソファに座って足を組み、目の前の大きな窓の外をヴィンセントは見ていた。
両手は膝の上に軽くおかれていて、窓から見える明るい光の中のスズカケの樹がぼんやりと彼の紅い目に写っている。
ー何考えてるんだろうな。
セフィロスは、彼の様子をじっと見ていた。
「何であの夫婦は懐かないルクレツィアにこだわるんだろうな。」
ヴィンセントがやっと口を開いた。
「あのガキをゲットしたら、なにかもらえるとか。」
「ほんとにそう思うか?」
「わからん。適当に言っただけだ。」
セフィロスが寄り掛かっていた壁から離れて、ヴィンセントの座っている向いのソファのひじ掛けに軽く腰を降ろした。
「散歩している時に、ちょっと思ったんだが・・・」
ヴィンセントが言いかけて、口を閉じる。
「何だよ?言いかけてやめるなんて。」
セフィロスの返事も聞いていない風に、足を組み直し、少し考え込んでから席を立った。
「セフィ、ここの屋敷の主人といつ会うんだ。」
「早い方がいいな。今日話ができればすぐにも。」
セフィロスも立って、応接から一緒に出ようとする。
ドアを開けながら、さっき言いかけたことを聞こうとした時、
「あっ!ヴィンセントいい所に!!」
リーブが泣きそうな顔をして、ヴィンセントの腕を掴んだ。
「ど、どうしたんだ?」
あまりに切羽詰まった様子に、びっくりするヴィンセント。
「会社のメールが見られるPC持ってますか?何か私の認可待ちのが山ほどあって、総裁から仕事止めるなって、電話迄かかってきちゃって・・・」
「認可書類なんて、携帯で適当に見て判押しときゃいいだろ。」
ここにも邪魔者がいたよ・・・、と思い出し、うんざりした顔でセフィロスが答える。
「セフィロス!携帯でどうやって見るんですか!!??」
お前出張だっていうのに設定してこなかったのかよ、と言いつつセフィロスが自分の携帯を取り出す。
「私のPC会社のメール見られたかなぁ・・・?クラウドとティファも持っているか聞いてみるよ。」
期待してます〜、とその場を離れるヴィンセントに縋り付かんばかりのリ−ブさん。
ーお前のおかげで(多分)大事な話聞きそびれたじゃないか!
かなり不機嫌な表情のセフィロス。
「で、どうやって携帯で仕事するんですか?セフィロス。」
困りきっているので彼の不機嫌に気付かないリーブさん。
それでも、携帯貸せ、と言って認可システムに繋げられるか調べてくれる、親切なセフィロス様でした。

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