ケガをした頭をかばいながら無理を押して会ってくれた女性は、この屋敷の主人と似ているくりくりした大きな目が特徴的な、可愛い感じの人だった。
ーお前ほっとしてるだろ。
セフィロスがヴィンセントの脇をちょっとつつく。
ーなんでほっとするんだよ。
これ以上俺に似てるやつが出てきたら大変だよな〜、としれっと言い掛ける。
静かにしていなさい、とリ−ブに注意されて、三人はそれぞれ彼女の部屋にある椅子を話を聴けるぐらいのベッドの側に持ってきて落ち着いた。
「すみません、具合が良くないのに会って頂いて。」
ヴィンセントが申し訳なさそうに彼女に挨拶した。
「三人は多すぎるようでしたら、一番圧迫感のあるのを退出させましょうか?」
リ−ブさんがセフィロスを指して、彼女に言う。
「一番うっとうしくて、親父くさいのがいなくなった方が疲れないんじゃないか?」
セフィロスがリーブの椅子を、さりげな〜く足でベッドからずるずると離していった。
二人のやり取りに思わず、私が出ようか、とヴィンセントが言う。
「いや、ヴィンがいないと話進まないから。」
「リーブ説の支持者がいなくなったら困ります。」
はあ・・・、とため息をついて席についたヴィンセントを見て、女性は微笑んでから口を開いた。
「二人も三人も変わりませんのでいいのですが・・・。
申し訳ないのですけれど、話すと言ってもほとんどあの時の事は覚えていないのです。」
こめかみの辺りはリーブも言っていたひどいきずがあるらしく、そこを中心に包帯が丁寧に巻かれている。
「何も、ですか?」
「はい・・・、何も。」
彼女の父親が同席していないせいかちょっと落ち着かない様子で、時節眉を潜めて痛みがまだ引いていないようだった。
ヴィンセントが続けて、何で当日研究棟のその部屋に入っていたのかを聞こうとした時、彼女の顔色が見る見るうちに青白くなって、疲れたように目を閉じる。
「家政婦さん、呼んだ方がいいですね。」
リーブが席をすぐ立って、階下で仕事をしている女性を呼びにいく。
「すみません、無理させてしまって。」
ヴィンセントが謝ると、
「いえ、ご協力出来ることでしたらなんでもしたいのです。こんなことになってしまって、あなた方のお友達がここに引き止められているのですから。」
そう言いながらも、話すのも苦しそうに目を閉じる。
「医者も呼んだ方がいいかもな。」
セフィロスが言って、その日はそのまま彼女と何も話せずに部屋を退出したのだった。
「収穫は、あの女の怪我は相当ひどいって分かったくらいか。」
屋敷の周りの様子を見る為二人で散歩しながら、セフィロスが口を開いた。
「でも、本当に何も覚えてないなんてあるのか?・・・何か重要なことを隠している気がするんだが。」
あんなひどいけがをしたんだから、普通は少し話したがると思うけど、とヴィンセントが言う。
屋敷の裏口を出ると散歩道のように細い道が続いていて、その道なりに進むと井戸がある。
この屋敷の家政婦が時々使うと言っていたものだ。
屋敷の周りは、駅からの道のりと同じような雑木林が生い茂っているが、車道のように舗装されていないせいか、森の奥深くに迷い込んだ印象を受けた。
東から昇る太陽は木陰の中をさんさんと降り注ぐ。
「本当にここの屋敷は、ミッドガルの事件に関係あるのかなぁ。」
細道を進みながら、ヴィンセントが話しかけた。
「今んとこ全然わからん。っていうか、あの女自分が襲われた原因も言わなかったな。」
しばらく道なりに進んで行くと、つる草に絡まれた井戸が右手に見えてきて、その先にも小道は細く続いていた。
「それを言うなら、ミッドガルの事件の方もまだ何が原因か分かってないぞ。」
迷宮入りかな〜、とヴィンセントが呟く。
「叩けばほこりがあらゆるところから出て来るけど、全然それらしく繋がらないしな。」
セフィロスが、井戸に腰掛けて言った。
「どれも怪しく見えるけど、どれも関係なかったりしてな。」
ヴィンセントが笑って、井戸の側の木に寄り掛かった。
「解決しなかったら、リーブに調査不可の報告書ださないと。」
と口からでてきた後
ーあっ、あとルクレツィアも何とかしないとな。
と、頭の中に浮かんだ。
「ヴィンは何で、あのガキの母親は殺されて子供は残したんだと思う?」
「さあ、殺し損ねたか・・・」
ーまたは殺したくない理由がある、貴重なサンプルだったとか。
ふっと浮かんできた考えに、ドキッとして思わずセフィロスを見た。
「何か思いついたのか?」
視線に気付いて、セフィロスが話し掛ける。
「いや・・・、そう言えば他の被害者は子供がいなかったっけ?」
自分の暗い考えを打ち消すような、明るい森の光の風景が眼の前に広がっている。
あのガキと相性の悪い警官にでも聞いてみたらどうだ、と聞こえてきて、そうだな、と答えた。
「この先も行ってみるか?」
ヴィンセントがまだ続いている小道の先を見やって聞いた。
セフィロスはなぜか井戸の中を覗いている。
「そういやここ、水道通ってたっけ?」
セフィロスの問いに、水道の蛇口があったろ、と答えるヴィンセントだった。
彼の答を待たず、寄り掛かっていた木から離れて小道を先に進む。
「この辺を熟知していれば、あの研究棟からこの道をたどってどっかの街へ紛れ込むルートは取れるかな?」
後ろから追いかけてきたセフィロスに話し掛ける。
「明るい夜じゃないと難しいんじゃないか?見通し悪そうな森だし、事件のあった日は新月だったようだからな。」
「何とか行けそうな気もするんだけどな。」
「ヴィンみたいに野育ちならな。」
そうかよ、と返してからお互い無言で10分程歩いていくと、遠くから水の落ちる音が聞こえてきた。
その音の方向に小道はずっと続いている。
道なりに歩いていると、時々木が風にそよいでざわめく音が聞こえてきて、まるで森林の中シンフォニーを聞いているような気持ちのいい感覚に包まれる。
と、いきなり目の前に滝つぼが現れた。
広葉樹の木々に囲まれて、申し訳程度の岩場とその先にある深く底が見えない滝つぼ、きれいな放物線を描いて落ちる細い滝が見えた。
「一応目印になるな、この滝は。」
頭の大分上方から水がきれいなラインで落ちて行き、深い滝つぼへ水流が吸い込まれていく。
小道はここで途切れ、その先は見渡す限り出口がどこにあるか伺い知れない森の中だった。
「まんまとここまで道に迷わないで来たとしても、多分ここから一般道に出るのは難しいな。」
セフィロスが地図を広げた。
ヴィンセントもそれを覗き込む。
「ちょうどこの滝は森の中心だな。森の切れるところへは一番距離的にも遠いし・・・でももし森の外の道路に出られれば、ミッドガルや他の都市へのルートがあるから、まんまと逃走可能と。」
その辺の岩場に二人とも腰を降ろした。
「でも、逃走ルートが分かってもあの部屋から出られなきゃ一緒じゃないか?」
地図から目を離してセフィロスが言った。
「っていうか本当にあの部屋に人がいたかも怪しいからな。」
でも、あんな怪我自分でつけられないし、何か変な手形もあったし・・・と呟く
「ただでさえこんがらかってる案件やってんのに、なんでよりによってこんな複雑な状況にクラウドは巻き込まれるんだよ。」
「・・・ほんとだ。」
どっから手をつければいいのやら・・・、と二人とも考え込んでしまった。
滝の落ちる音だけが響いて、他の音は聞こえてこない。
光の指す角度がいつのまにか頭上高くに移動して、座り込んでから大分時間がたったようだった。
「あの女性が、しゃべってくれるといいんだけど。」
考え込んでいたヴィンセントがため息をつく。
「聞く人を変えてみるか?」
セフィロスが提案した。
「クラウドとかティファにきいてもらおうか。ちょっと同情的だったし。」
悪くないアイディアだけどさぁ・・・とセフィロスが言葉を続ける。
「でも、あいつらあの女の研究内容全然分からないぞ。」
「・・・それじゃ、きけるものもきけないかもな。」
じゃあだめだ、と考え直す。
「取りあえず、飯食いに戻るか。」
悩んでてもしょうがない、とセフィロスが立ち上がった。
「あっ、セフィ屋敷の主人に話し聞かないと。」
OK、と答えて二人とも来た道を戻って行った。