事件が起こったのは夜も更けた11時過ぎ頃だった。
クラウドが、守衛の老人に起こされてティファの部屋の扉を叩く。
「なんか大変なことが起きているみたいだから、行ってくる。」
そのまま階段を降りて行こうとしたら、
「私も行くわ。」
と、ティファも追い付いてきていた。
「何があったんですか?」
相当焦っているらしく老人なのに追いつけないくらい早足で進む守衛さんに、小走りでついて行きながらきく。
「お嬢さんが、襲われているようなんだが扉が開かないんですよ・・・。」
ティファが、どういうこと?とクラウドを見た。
屋敷を出て別棟にある研究棟に入り、守衛の先導に着いて行くと昼間会った屋敷の主人が血相を変えて扉を必死に開けようとしていた。
「パスワードは全部解除しましたよね。」
クラウドの言葉に大きく頷く主人。
「でも、この部屋には中からかけられる閂が備え付けられていて、普段は使わないのだが・・・。」
でも、開かないということはその閂で閉ざされているに違いない、と主人がいった。
「ティファ、何か切れるものが必要だ。強力なチェーンソーとかあるかな。」
ティファが守衛さんに目を移すと、もしかしたら使えるかも・・・と大木を切る為のチェーンソーを出してくると言う。
「娘さんは無事なんですか?」
「分からない。」
その瞬間、扉の奥にいる彼女の悲鳴と部屋の中の物がひっくり返される音がした。
「クラウド、大丈夫じゃないよ!」
ティファが扉を力一杯押し始めた。
彼女につられて、クラウドと屋敷の主人も扉を押し始めた。
「んんーーーー!!」
一瞬歪んだ気がしたが、開くまではいかないらしくそのままの状態で扉は鎮座している。
ーやっぱ無理だよ。
思った瞬間、
ガシャン!
と扉の奥で音がした。
主人の顔が引きつる。
「多分窓が割れた気がします。あんな部屋だから侵入者が逃げられるとは思いませんが・・・。」
前にも増して扉を開こうと必死に押すが、びくとも動かない。
と、守衛のおじいさんがチェーンソーを持ってやってきた。
「危ないですから、退いていて下さい。」
部屋の向こうにいるはずの彼女にも大声で注意を呼び掛ける。
キィーーーンと耳に痛い音が響いて、重い閂が少しずつ切れていく感じがした。
ーティファ、暴漢が飛び出してきたら二人でしとめるから。
クラウドが彼女に囁いて、大きく頷く。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
おじいさんが、言う前に館の主人が部屋に飛び込んで行った。
クラウドとティファはドアの前で身構えていたが、飛び出してくるはずの暴漢はいつまでたっても現れなかった。
「君!救急車を呼んでくれないか!」
血だらけの頭部をさらして気を失っている娘を抱きかかえて、館の主人がクラウドに呼び掛ける。
「えっ・・・中に誰もいないの?」
急いで救急車を呼びに行ったクラウドと、彼女を看護しようとタオルを用意するティファだったが、二人とも彼女にひどい怪我をさせた暴漢にはその後も出くわせなかった。
「ほんとに部屋に二人いたのか?」
開口一番セフィロスが口を言った。
「だって、すごいひどい傷だったんだ!自分ではつけられない角度だってお医者さんも言ってたし。」
クラウド言い張った。
「しかも、人が侵入した足跡とかあったし・・・。」
ティファの言葉にリーブの眉が上がって、ヴィンセントとセフィロスが目を見合わせる。
「出て行った跡はあったのか?」
注意深くヴィンセントが質問すると、クラウドが首を振る。
「当時の気候は?誰か状況がわかる写真を持っているやつは?」
セフィロスがクラウドを質問攻めにしてきた。
「セフィ、そんないっぺんに答えられないよ。」
憮然と口を閉じた彼の質問を引き取るように、ヴィンセントが続ける。
「とにかく、その女性が誰かに本当に襲われて怪我をしたんだったら、どうやって暴漢が出ていったのか調べないといけないし・・・。警察が調べた記録も参照もしたいから、・・・誰に聞けばいいのかな?」
「あと、その女がどうしていつも使わない閂をかけて部屋に籠っていたのかもな。」
セフィロスが付け加える。
「もう、この屋敷のお嬢さんは話ができるのかな?」
「まだ、無理かも。絶対安静だっていうから。」
じゃあ、どこから手を付けましょうかね、とリーブがまとめてみんなで話し込み始めたのでした。
屋敷の正面玄関から外にでると、木々がところどころ植わっている庭があり、そこから左方にある別棟が研究室のようだった。
「やっぱり立ち入り禁止らしいな。」
建物をしげしげと見て、気付かれずに入れる入り口はないものかと探すヴィンセント。
「誰も見てないなら入っちゃったらどうだ?」
セフィロスが周りを軽く見て、非常線が張ってあるロープをさっさとまたいで進んで行った。
ーこの躊躇の無さは一体何なんだ・・・
リーブ見ていてくれ、と言おうとして彼が居ないことに気付いたが、セフィロスがもう研究室に入り込んでいたので、急いで後を追った。
研究室のある別棟はドアから中に入ると、一本道の廊下がある。
両側には部屋はなく、玄関脇に上半身がすっぽりはいるくらいの大きな窓があった。
「変な間取りだな。」
前方にいると思われるセフィロスに話しかけながら進む。
廊下を抜けるとドアがあり、開けるとすぐに研究室に出た。
「結構金持ちだぞこいつら。電子顕微鏡がある。結構いいやつだ。」
セフィロスがちょっと顕微鏡をなでて、彼女が暴漢に襲われたと思われるその奥の部屋の扉を開けた。
「電子ロックがあるのに、なんでアナログな閂まであるんだ?」
すっかりまっ二つになっている、閂を見てヴィンセントが呟く。
「盗まれたら困るような、大層な研究をやっていたんじゃないのか?」
セフィロスが部屋を見渡す。
部屋の中は大量の書類キャビネットと、簡単な実験ができるような機具が備えられていたが、見る影もなくめちゃくちゃになっていた。
「人が隠れるには、ちょっと小さいな。」
キャビネットを開けてヴィンセントが言う。
「あれが割れた窓ガラスか。」
と、セフィロスが呟いて目をそこから左に移すと、上方には血だらけの手の後が生々しく残っていた。
「女性にしては大きいし・・・あれが人がいたっていう証拠かな。」
ヴィンセントが言う。
「入ってきた跡があったって言ってたが・・・」
足下を確認したが、既に色々な人が入ってきた後だったのでどれが誰の足跡か全然分からなくなっていた。
「窓には鉄格子がはまってるし・・・セフィそれ取れそうか?」
両手でぐらぐら揺らして、無理無理、と返答が来る。
「やっぱ、誰もいなかったんじゃないのか?」
セフィロスの言葉に、私もそう思うよ、と答えつつ部屋を検分する二人だった。
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