きれいな青空の金曜日、2週間ぶりにオフィスに出社したヴィンセントを見つけたリーブが、彼をちょいちょいっと招き寄せた。
改まってなんだろう?と思いつつ、応接に誘導される。
「あんまりこっちに顔出せなくて悪いな。」
飲物までだされ、訝しい度Maxになった時、取りあえずリーブに言い訳のようにヴィンセントは言った。
「本当です。昨日なんかセフィロスに絡まれてしまいましたよ。」
リーブの言葉で彼が何を言おうとしているのか、それとなく伝わってきた。
「ちゃんと彼の相手もしてあげて下さいね」
と、念押しが来ると、
「そうだったな・・・すっかり忘れていた。」
と言いながら、言葉は全然気がない感じだ。
「子育てが大変なら、全部ティファに任せるようにしても良いんですよ。」
リーブが提案しても物思いにふけって、答が返ってこないので、話題を変えてみた。
「その後事件の方はどうなんですか?」
ヴィンセントは突然ぴくりと反応して、リーブの方を向いた。
「あんまり芳しくない。次の被害者は出てないんだが、今までの被害者に全然共通点がみつからないので、動機が全くつかめずにいる。」
ただの異常者とか衝動的な偏執狂の連続殺人なのかなぁ・・・その割には現場は荒らされてないし、と考え込むように言葉を続けた。
「共通しているのは場所ぐらいですね。」
リーブが殺人の起こった地図を見て言った。
「でも、ルクレツィアの母親が殺されたのは列車内だったし、これだけ別件なんだろうか?」
ールクレツィア?
リーブがじっとヴィンセントを見た。
「ルクレツィアって、誰ですか?」
「・・・今引き取ってる女の子の名前だ。」
リーブの目が面白そうに細められるのを見て、ヴィンセントは
「あのな、本名だからな。」
と急いで付け加えた。
リーブは受け取った当時は良く見ていなかった、被害者の子供達の写真を書類の束から器用に抜き出した。
「ほんとだ、よく似てますねぇ・・・これじゃあセフィロスのことを忘れるのも無理はない。」
かなり面白いネタに突き当たって、楽し気なリーブ。
ヴィンセントはしまった、という風に落ち着かない感じで目を逸らせていた。
「おや、まだ10歳ですね。」
リーブはにこーっと、ヴィンセントに笑いかけて
「危ないおじさんにならないで下さいね。」
とこれ以上はないくらい楽し気に話し掛けた。
するか、そんなこと、と答えてヴィンセントは急いで席をたった。
リーブが彼をドアの方まで送りながら、報告はこまめにお願いしますね、と付け加える。
「似ているのは訳があるんだ。」
ヴィンセントが扉を開く前にリーブに言った。
「彼女の妹の孫娘だった。」
複雑な表情をしている彼の言葉に、リーブはにっこり笑って答えた。
「おやおや、すごい隔世遺伝ですね。」
「確かに。」
セフィロスによろしくって言っておいてくれ、と言い残してヴィンセントは帰って行った。
ー来たならに会いに行けば良いのに。彼だって可愛い息子みたいなもんじゃないですか。取りあえず今はね。
何だか妙なヴィンセントの態度にリーブは考え込む。
ー取りあえず現状ぐらい教えてあげないと、彼に対してフェアとは言えませんね。
とひとりごちて、リーブは携帯を取り出すとセフィロスの内線にかけ、出ないと分かると改めて携帯にかけ直した。


携帯を取った時、セフィロスは実行部隊棟の中央の廊下をずんずん歩いていた。
「お前の話って、いつもまどろっこしいから意図がよく分からん。」
廊下の真ん中を堂々と歩くセフィロスに、周りの人が道を譲っていた。
リーブは何だかんだと話を続けながら、彼を今の場所から誘導しつつ最後に、
「まあ、取りあえずそこから急いでビルの入り口に向かってもらえれば。」
と、ぷちっと電話を切った。
セフィロスはこいつはなんなんだ、と思いつつもいつの間にか実行部隊棟を過ぎて、ビルの出口の近くに来ていた。
ちらりと出口の方を見ると、
ーあっ・・ヴィン。
ガラス張り壁面の向こうにヴィンセントが歩いていくのを見つけて、急いでビルを出ようとした。
今日は気温が低くてノースリーブはちょっと肌寒い。セフィロスは上着を持っていなくてちょっと失敗した、と思ったが取りに帰っているとヴィンセントを見失いそうなのでそのまま追い掛けていった。
「ヴィン、ちょっと待て。」
彼が次の角を曲がろうとしたので、声をかける。
振り向いてセフィロスを見た目は一瞬大きく開いて、いつもの笑顔になった。
「セフィ、そんなに急いでどうしたんだ?」
歩みを止めてセフィロスが来るのを待っている。
近くまで来て、少し速度を緩めてヴィンセントに話しかけた。
「・・・なんか大変なことがあったら言ってくれ。俺今暇だから。」
自分で言っておきながら、こんなセリフ別に追いかけてまで言うことじゃ無いよな、と余計なことが頭に浮かんでくる。
「セフィは優しいな。ありがとう。」
いや、本当はこんな会話をしたいんじゃない、と思いながら、久しぶりの穏やかな声にもっと話がしたくなった。
ヴィンセントがちらっと時計を見る。
「急いでるのか?」
思わず声をかけてから、しまった、と思った。
「いや、大丈夫。一緒に昼飯を食べるか?」
ヴィンセントの誘いに、すぐにOKする。
ついでに絡もうとヴィンセントに近づいたが、気付いているのかいないのか、微妙に間を外された。
「あのさ、ヴィン。」
イライラして、不満を伝えようと口をひらくと、振り向いた彼のやわらかい笑顔と、昼過ぎのけだるい空気に、何となく心地よくなってしまった。
ーこれじゃダメだ・・・絶対進展しない。
先日の反省を胸にしまいながらも、ヴィンセントに大人しくついて行ってしまうセフィロス様でした。

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