ミッドガルから1時間程の鉄道に乗って郊外へ向かうと、灰色の都市の色が少なくなってきて、目に優しい緑が一面に広がってくる。
クラウドとティファがミッドガル中央駅から、ルクレツィアの母親が行こうとしていた経路で、目指す研究所へ向かったのは大雨の次の日だった。
「やっぱり正体を知られずに調査するには、変装しないとダメだと思うのよ!」
昨日の資料調べの合間、ティファは調達課にいると絶対に振られないようなわくわくする任務に張り切って言った。
「まあ・・・怪しまれないような肩書きがあると、スムーズに邸内に入れるとは思いますが。」
リーブがフォローを入れるように考える。
自分が行く訳ではないので、もうどうでもいいや状態のセフィロスは、いつ帰ろうかな・・・と会議室の時計に目を向けていた。
「雑誌とかの、記者になってみるとか。」
クラウドがおずおずと言ってみる。
「それすてき!敏腕新聞記者のコンビ!」
知的で事件とか解決できそう!とティファが言うと、
「そんな若くておどおどしている男と、巨乳の女なんかいる新聞社があるかよ。」
と、セフィロスが口を挟んだ。
「セフィロス、それはセクハラ発言ですよ。」
キッ!とティファが彼を睨んで、リーブが注意する。
舌を出して目をそらしたセフィロスと、誰からもフォローされないクラウドが密かに落ち込んでいた。(笑)
「でも、良く考えてみたらこの研究所の親子って、全然事件に関係ないかもしれないのよね。」
ティファが調査に興奮して眠れなかった昨晩から、ちょっとさめて冷静に分析した。
「でも、警察も事件の証拠からあんまり進展していないようだから、意外と何かわかるかも。」
っていうか、何か分かって欲しい!という期待も込めてクラウドが答える。
「でも、結局はセフィロスの考え通りに動かされているって悔しいわね。」
それはやっぱりセフィロスはすごいから・・・と、クラウドが言いかけて、
「でも、エアリスはセフィロスは結構とんちんかんなことやってて、頼りにならない時もあるって言ってたわよ。」
とティファが言い返す。
そんなこと言ったって、セフィロスは俺の上司で、そのコメントにどう返せばいいんだよ・・・とクラウドはティファの言葉に黙って窓の外の田園風景に逃げたのでした。
鉄道が止まり車両から降りると、こじんまりとして鄙びた駅が出迎えてくれた。
「ここでいいのよね。」
列車は二人をおいてあっという間に発進してしまったので、たとえ間違えてももう戻れないが。
「うん、ちょっと歩くけど、きっとあの森の奥にちょっと見える建物の気がする。」
住所と地図を見比べながら、クラウドが目的の方向を確認した。
降りたのは自分達だけではないと思うのだが、駅には既に人影はなかった。
駅員に聞こうにも、事務所の奥の方にも人が見つからず、無人駅じゃないよな・・・、なんて思ってしまう。
「クラウドなにぐずぐずしてるの?」
ティファが既に改札を出て、目的の屋敷へ向かおうとしていた。
ー行く前に情報収集したかったのに、誰に聞いていいのかわかんないんだよ・・・。
クラウドがぐずぐずしている間にティファはタクシーをつかまえていた。
「クラウド、ぐずぐずしてると研究所を訪問できないわよ。」
「ちょっと何か調べてから行った方がいいんじゃないか。」
悔しそうにクラウドが言い返す。
「あなたの上司が調べてもわかんないこと、ここに来たからってクラウドがすぐわかるはずないじゃない。」
タクシーに乗り込みながらティファが言う。
ー・・・そうかもしれないけどさぁ・・・
ティファの巧みな(?)言葉に言い返せずに、結局はクラウドも一緒にタクシーで研究所へ向かったのでした。
クラウドとティファが調査旅行に行ってから2〜3日して、ヴィンセントはいつものように新聞をざっくり見てから出社した時、どうも頭の中で引っ掛かる感じがとれなかった。
ー何か変な記事が載ってたかなぁ・・・
残念ながら現在事件の進展はあまりなく、このままの状態が続くならセフィロスは元の仕事に戻して、自分だけでやろうかと思っている所だ。
ーどうも最近頻繁に家に来るから、うるさいし・・・。
途中まで出社して、やっぱり新羅カンパニーでもうちょっと情報もらおうかと思い、オフィスに電話をかける。
呼び出し音がかなり長くなって、女性が出た。
「リーブさんは緊急会議で今席にいません。」
ー?何かあったかなぁ・・・
心当たりがこれといって思いつかなかったヴィンセントは、やっぱり出社して何があったのか確認することにした。
リーブが大人しく会議室に座ると、既に何人かが集っていた。
「今日は何をするんですか?」
手近な人に聞いてみたが、まだそこにいる誰にも話がきていないらしい。
席に座って暫くたつと、時間ギリギリにセフィロスが入って来て会議が始った。
「今日集って頂いたのは、うちの社員が警察に殺人未遂の容疑者として拘束されていることの連絡と、その件について話題になった時の対応についてです。」
集った人間から少しざわめきが聞こえてきた。
特に配付資料は用意していないようで、広報担当が会議室正面のボードの前に立って話し始めた。
「事件については、本日付けの新聞、ニュース等で軽く報道されているかもしれませんが、クライアントがもしこのことについて聞いて来たら・・・」
ー一体誰がそんな間抜けなことしたんでしょうかねぇ・・・
殺人事件と言ったら今ヴィンセントが調べている大きい案件があるが、この取り上げ方だと関係ないかと思われる。
後ろの方に座っているセフィロスも、興味無さそうに上の方を向いていた。
ーまあ、私は営業部門ではないのでそんなに聞かれることもない気もしますが。
一般的な対応の説明が終わって会議を解散したが、セフィロスとリーブは声をかけられた。
「二人とも総務に行って下さい。別途連絡がありますので。」
頭の隅にまさかと思いつつも、二人とも会議室を出て総務部へ向かう。
「俺が思ってること言っていいか。」
廊下を歩きながらセフィロスがリーブに話しかけて来た。
「えっと・・・何で総務部に行くって事ですか?」
彼の長い歩幅に合わせるように、急ぎ足で歩くリーブ。
「多分やつら関係あるんじゃないか?」
「やつらって?」
リーブが念のために聞き返す。
「お前が無責任な人選したから、話が複雑になりそうだってことだ。」
総務の部屋に入ると、中の女性がナナキさんがあっちで待ってますよ、とにっこり笑って奥の応接に通してくれた。
思い直して会社に向かうヴィンセントだったが、やっぱり頭の中のひっかかりが気になって、出社途中でいくつか新聞を買った。
歩きながら何が引っ掛かっていたのか、探すように記事に目を走らせるがいまいちこれと言うものが目に入らない。
ー家にいた時は、あれ?って思ったんだけどなぁ・・・。
そんなに大事なことじゃなかったのか?と思われてくる。
すごい小さな記事だったのは覚えている。
ー社会面だったかな。
もう一回新聞を開こうとして、会社のビルについた。
ー・・・やっぱり帰ろうか。
それで家の新聞を見れば思い出すかもしれない。
携帯を確認すると、ルクレツィアからメールが入っていた。
内容は昨日一緒にいてくれてありがとう、という言葉から始って今日の学校の事が延々と書いてある。
メールの送付時間を見ると、どう考えても授業中だった。
ー・・・。
勉強ちゃんとしなさい、と返信してヴィンセントは自分もちゃんと出社するか、とビルに入って行った。
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