警察官を追い出してから、セフィロスはカルテを手にして居間でずっと考え込んでいた。
目は何回も同じ文字を追っているのだが、頭の中全然関係ない思考が駆け巡っている。
ーっていうか、一番わかんないのはヴィンがあのガキをどうするかって事なんだよな。
えっ!そこですか、ずっと悩んでいたのはセフィロスさん!(by筆者)
重要な情報があるはずなのだが変に集中力が続かなくて、しょうがなくカルテをばさりとテーブルにおいた。
ソファから見える窓は雨が止んできているのが分かる。
時間を確認すると、もうすぐ12時を時計の針が指していた。
ー会社に行くか、・・・どうすっかなぁ・・・。
昼食もどうするかも迷いながら、セフィロスは目の端で窓の外から見えるアジサイの葉の鮮やかな緑に、雨露がのっているのをちらりと見た。


結局リーブが見せたチラシから、豪華中華三昧なメニューを選んだクラウドとティファは、30分もしないで運ばれたランチを微妙なバランスで資料を取り除けつつ、食事の席へとセッティングした。
「う〜ん・・・美味しそうですねぇ・・・」
湯気がほかほかでて、いる海老チリと、ティファが、それっ!と開けたフカヒレスープの蓋からこぼれでる香りへ、リーブが嬉しそうに言う。
「麻婆豆腐と、秘伝のスープが入った小龍包もまだあるんだぞ。」
リーブのお金で頼んだくせに、クラウドが自慢げに他のメニューも読み上げる。
「ほんとに美味しそう!この麻婆豆腐なんて、きっと家庭ではでないスパイス使ってるわよ。」
ティファが幸せそうに一口すくって、辛〜い!!けど美味しい!と目をつぶった。
海老チリをかき込むクラウドを満足そうに見て、リーブさんがフカヒレスープを取り分ける。
「ところで、クラウドはセフィロスからなんかヴィンセントの事きいてるの?」
ティファが小龍包をつまみながら、聞いてきた。
「特に・・・何も・・・。」
食べるのに忙しくて、口の海老を噛みながらクラウドが答える。
「最近ヴィンセントは私にもセフィロスがどうしているか教えてくれないんですよ。」
リーブが口を挟む。
「私としてはちゃんと進展しているのか、どうなっているのか気になってしょうがないんですが・・・」
そうじゃないと私の掛け金が全てシドのものに・・・、と呟いたのは二人とも気付かないふりをした。
「俺みたいな下っ端にそんな情報入ってこないよ。動物園について行ったくらいだし。」
「動物園!!??」
リーブとティファが身を乗り出して食い付いてきた。(笑)
「ちょっと、そんなに仲良くなってるの?どこまでいったの?」
ティファがクラウドの襟首を掴まんばかりに近寄ってくる。
「それって、ヴィンセントがいいって言ったんですか?それともセフィロスが無理矢理ですか?」
リーブがじれったそうに、質問攻めにする。
「い・・・いや・・・俺は何も言っていない!!!!!」
あとでセフィロスに詰問されるのが相当怖いのか、二人の疑問に一言も答えずに黙々と資料に向き合って食事を続けることにしたクラウドだった。
「大丈夫です。セフィロスにはクラウドから聞いたなんて一言もいいませんから。」
リーブがなだめるようにクラウドに優しく言葉をかける。
「きっと幽霊を一緒に調べてもらった時に、ちょっと言ってたデートの事だわ。」
「なんですか?それは。」
その場にケットがいたはずだったのに、聞いてないなんてリ−ブさんスパイ失格(笑)です。
「あっ・・・でも、きっとセフィロスは強力なライバルが今いますよ。」
思い出したように、リーブが言った。
「それってもしかして10歳くらいの女の子の事かしら。」
ティファの言葉にクラウドが、あの学校から抜け出して自分が探すはめになった子かなぁ・・・なんて思い出していた。
「そうです。とうとうセフィロスもヴィンセントの過去と向き合って、彼をゲットする作戦を立てないといけなくなってきたようですね。」
リーブが物知り顔で得意そうに分析を始めた。
「そんな重いの?ヴィンセントの過去は。」
「エアリスから聞いてないですか?」
「う〜ん、何となくって感じだけど・・・。」
二人の意味深な会話に、クラウドは身を乗り出しきて会話に加わろうとする。
「クラウドには教えられませんよ。」
リーブがにっこり笑っていった。
「何でだよ。デートネタ提供したじゃん。」
自分で失言だと思ったにも係わらず、食い下がるクラウド。
「ダメダメ。だってセフィロスに詰問されたらクラウドしゃべっちゃうでしょ。」
ティファがきっぱりと言った。
「そんなこと言うなら、俺がすごい手がかり見つけても二人には教えない!」
残りの小龍包を全部平らげて、デザートにアンマンを手にとり、クラウドが悔しそうに二人を睨んだ。
そんなこと言われてもねぇ・・・とティファは思ったが、リーブさんは楽し気に食事を終えると資料を何ごともなかったかのように、再び漁り始めたのでした。
ヴィンセントはイリーナと昼食をすませてから、新羅カンパニーの資料室に赴いた。
資料室は最上階にある役員室の隣にあって、イリーナはツォンから聞いたらしい暗証番号を片手に慎重に扉の横のキーに入力していた。
「珍しいお客だな。」
一直線に続く広い廊下に突っ立っているヴィンセントが振り向くと、ルーファウスがちょうど社長室から出てきた所だった。
「某国の調査の時は色々と。」
軽く会釈すると、レノが世話になったな、と返された。
「ヴァレンタインさん開きました。あっ!!!」
イリーナがルーファウスを見て、慌てて深々と頭を下げる。
「すみません!社長。」
と心底申し訳無さそうに言った。
イリーナに、ちゃんとヴィンセントを補佐しろよ、と声をかけた後
「お前も、セフィロスも他の人間も、新羅カンパニーに戻ってきたいならいつでも歓迎するぞ。」
とさらりと言う。
「ありがとうございます。御縁があったら。」
ヴィンセントが答えると、お前は自分から縁を切りそうだ、とつぶやきながらルーファウスは二人に手を振って会議室へ消えて行った。
「やっぱり社長に会うのは緊張しますねぇ。」
ルーファウスが会議室に入ってから、イリーナがほっと声を出した。
「イリーナはツォンが好きじゃなかったのか?」
ヴィンセントが扉に滑り込む瞬間に言う。
「やだ!大声で言わないで下さいよ!!」
既に資料室の奥に消えたヴィンセントに話しかけたつもりだったが彼の姿はなく、イリーナは自分の声が廊下に響いているのに焦って続いて資料室に駆け込んだ。
ヴィンセントが滑り込んだ部屋の中は、地上60階以上の眺望から見える太陽の光を窓からいっぱいに取り込んで明るい書庫だった。
ー隠すべき資料をこんな所に置いているなんて、やっぱりルーファウスは食えないやつだな。
ヴィンセントは自分が探す資料の書棚の検討をつけようと、ちょっとうろついてみたがあまり役にたたなかったらしく、検索のPCの前に座った。
「何を探すんですか?」
ヴィンセントに追い付いたイリーナが、話し掛ける。
「宝条が新羅カンパニーにいた時の記録だ。」
「それはこのPCでは・・・」
とイリーナが言う前にヴィンセントが検索すると、何もヒットしなかった。
明るい青空の窓を背景に、ヴィンセントがイリーナの方を振り向く。
「その資料は本当に機密書類なので、ここではなくて、社長室の奥にある書架にあるんです。」
一応、ツォンさんに許可をもらったので入れるんですけど・・・とイリーナが言いつつ及び腰なのは、許可をもらっていても社内の色々な調整を考えて脱力しかけたせいに違いない。
セフィロス様は結局のところ、ヴァレンタイン家にある食材を使って適当な昼食をしつらえて、お食事をなさっていました。
ワインビネガ−風味ドレッシングを加えたローストビーフのベジタブルサンド、とも言う感じのオリジナルサンドイッチを食べながら、やっぱりカルテを見てしまうセフィロス。
ー雨、やんだな。
明るい光を見て、若干気をそらした。
自分が作った食事には満足したのだが、カルテの分析はいまいち進まず若干イライラし始めていた。
ー本当にこいつに何も書いてなかったら、こんな気持ちになることはないはずなんだが。
今までの経験から、こういう時は何か見のがしているはずだ。
ーなのに気付かないって事は・・・
やっぱり気が散っているんだと納得するセフィロス。
こんな時はその原因にあたるのが一番なので、早速当人に連絡を取ることにした。
10コールぐらいかけても出なくて、携帯に持って居間を2、3周回ったが呼び出し音だけで全然電話に出る気配がない。
ーあいつ・・・留守電ぐらい契約しとけよな!!!!
乱暴に携帯を切った瞬間、持っていたカルテを落とした。
「うわっ・・」
床にばらまいてしまって、まずいと思いつつ紙片を集める。
と、
「紹介状」
と言うタイトルの小片が目に止まった。
まだ書きかけで誰宛かも分からないが、ルクレツィアの母親のカルテに挟まっていたのだから目的は一つしかない。
「XXX研究所 住所:・・・・・・、TELxxxx-xxxxxx-xx」
ー何で気付かなかったんだ?
紙に触るとちょっと湿っていて、他の書類にくっついていたのかもしれない。
セフィロスは住所を注意深く眺めると、会社の情報網で参照しようとカルテを鞄に入れて、ヴァレンタイン邸を後にした。

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