セフィロスがヴァレンタイン邸で一人でカルテを見ていると、玄関の呼び鈴がなった気がした。
手にしているのは、ルクレツィアの母親のカルテだ。
ヴィンセントが昨日まんまと担当医師からくすねてきた物で、微妙に読みにくい走り書きが多かったりもする。
まだ昼前に尋ねてくるなんて誰だろうと思いつつ、セフィロスは呼び鈴の主が変な人物だったら招き入れないように、玄関の側に立って入り口を塞ぐようにドアを開けた。
「朝早くすみません。セフィロスさん・・・でしたよね。」
庭の奥にあるあじさいの紫が目に眩しく映える。
セフィロスは相手の警官が一瞬誰か分からずに、さっさと扉を閉めようとしたが(笑)、素早く彼はドアの間に足を挟んだ。
「一度会ってますよね。お忘れですか?あの、ルクレツィアちゃんと会う前に。」
よくよく彼の顔を見ると、うっすらと会ったような感じもした。
「何の用だ?あのガキはいないぞ。」
迷惑そうにセフィロスが言う。
「そうですか・・・事件当日の様子を聞きたかったのですが・・・」
残念そうに警官が言うと、セフィロスが思いついたように質問した。
「あのガキ、犯人を見ているのか?」
警官がゆっくり、セフィロスの顔を見る。
背後のあじさいが怖いくらいに鮮やかな色彩を帯びてきたように見えた。
「見ているといいのですが・・・それは希望です。」
なんとも言えない曖昧な言葉が発せられる。
「犯人を見ている以外にあのガキにしつこく付きまとう理由はなんだ?」
居間にカルテが置いてあるのを見せないように、体を動かす。
「そんな、何を疑っているんですが?証拠が少ないので、事件関係者に事情聴取をするのは普通ですが。」
警官がはた迷惑な様子で、セフィロスに言い返した。
「なら、ここに用はないだろ。ガキは今学校に行っているからな。」
ドアを閉めようとして、警官に言われた。
「そんなあなたこそ、何か隠したがっているように見えますよ。」
警官の言葉を全く無視して、セフィロスはドアを閉めた。
−まさか学校までは押し掛けては行かないだろうけどな・・・
まあそうなったら他のやつが守ってくれるだろうよと独り納得して、セフィロスはカルテに戻って行った。


新羅カンパニーは今でこそ大企業の中の一つに過ぎないが、ヴィンセントが就職したばかりの時はコングロマリットの頂点として他にない一企業支配の体勢をミッドガル内に築こうとしている途中の、中大企業の一つだった。
そのまま計画が進んだら、ミッドガルだけではなく他の地域も傘下に入れんばかりの勢いだったが、危うい所でどこかからストップがかかったらしい。
今では平和な大企業の一つとして営業をしていて、過去の遺産は本社内の資料室に眠っているに違いなかった。
ヴィンセントが、ツォン宛に訪問の旨を伝えたのだが残念ながら不在らしくレノ、ルードと呼び出してイリーナまで来た時に受付嬢の表情が会えそうな雰囲気に変わった。
「ヴァレンタインさん、どうして新羅カンパニーに来たんですか?」
イリーナが嬉しそうにヴィンセントを迎えに受付までやってきた。
「ちょっと頼みごとがあってな。」
受付嬢にお礼を言うように目を合わせて、ヴィンセントはイリーナとエレベータに乗り込んだ。
「私にもできることだといいんですけど。」
元タークスのフロアの階を押すイリーナ。
「宝条がここにいた時の記録を見たいんだ。」
ヴィンセントがさりげなくに言った。
彼女がびっくりしてヴィンセントを見る。
新羅カンパニーの過去の事はきっと表面的にしか聞いていないのだろう。
「彼の記録は社外秘でしかも重役でも閲覧申請が必要な、最重要書類です。」
私なんて無理無理、と即答する。
「別にイリーナに頼もうって訳じゃない。ルーファウスかツォンにすぐ連絡をとって欲しいんだ。」
にっこり笑ったヴィンセントの顔を見て、ほっとしたのとちょっと残念そうな顔をした。
「連絡係ですね。」
いつもと変わり映えしない役回りらしく、慣れた感じだがさっきよりは彼女の愛想が30%落ちた印象がする。
エレベーターを降りて、元タークスのメンバーの部屋に通されたヴィンセントは、地上60階と思われる眺めに軽く見とれていた。
眼下には公園が見えてそこにいる人々がちらほらと見える。
公園の先には大きな川ちらりと見えているが、天候がすぐれない為、普段通る遊覧船は運休しているようだった。
「毎日見ていると慣れちゃってあんまり眺めることも無いんですよ。」
電話をかけながら、イリーナが話しかけた。
まあそうだよな、と相づちをうって近くの椅子に腰を降ろす。
ここに来るまでの強い雨足は止まっていたが、まだしとしとと雨は降り続いていた。
でも雨雲事体はそんなに厚くないようで、そろそろ雨も止むのではという感じの薄明かりが全体的にさしている。
イリーナが連絡が着いたようで熱心に話していた。
彼女の話がまとまるまで、ヴィンセントは事件の事を考え始めた。
ー被害者5人、共通点は今のところ全員ミッドガルに居住。被害者女性は遺伝型アルツハイマー保持者ということ。
この条件の中で、一番被害者選定に便利な条件若しくは、選定のポイントになるような特殊な条件は?と考える。
ーまあ、大部分女性・・・というのが一番おおまかな共通点だな。遺伝型アルツハイマー保持者はかなり特殊な条件だけど・・・
気付いたのはセフィロスだが、今さら考えるとなんでこんな特殊な条件の女性ばかり集めたのか気になってくる。
ーっていうか、検死官は気付かなかったのか?
被害者のカルテを一番先に見るのは、検死官だろう。
ーそういう観点で、捜査をしていないんだろうか・・・。
ヴィンセントが頬杖をついて、考え込む体勢になった時、
「ヴァレンタインさん、連絡つきました。」
とイリーナに明るい笑顔で話し掛けられた。
「資料室に入れるのか?」
今浮かんだ自分の考えを忘れないように、ヴィンセントが言う。
「はい!パスワード教えてもらいましたから!」
張り切ってタークス(元)部屋を出るイリーナについて、自分の考えを頭からはみださないように気をつけながら、ヴァレンタインさんが彼女についていったのでした。
「ねぇ、クラウド。なんか怪しそうなの見つかったの?」
時刻はもうとっくにお昼を過ぎて、食事に出かけてもいいようなものだがリーブもクラウドも一歩も動く気配がないので、しょうがなく彼女が沈黙を破った。
「・・・」
無視しているのか無言で資料をめくるクラウド。
ーなに切羽詰まってるのよ!
ちょっとクラウドを睨み付けた彼女をめざとく見て、
「ティファさん、私ご飯食べたいんですが付き合ってくれますか?」
とリーブが声をかけた。
クラウドが顔を上げる。
「もちろん!リ−ブさん外で食べたい?」
ティファがにっこり笑って誘って親指でさした外の様子は、既に雨が小降りになっていて傘をささないで歩いている人もいるくらいだった。
「俺、出前取りたい。」
外の天気に見向きもしないで、クラウドがきっぱり言う。
「ちょっとは息抜きしなさいよ。」
「だって、この手がかりわかんなかったら俺がこのチームにいる意味無いんだぞ。」
真剣にティファを見つめるクラウドに、彼女も負けずに睨み返した。
ーま・・・まずいです・・・。
「二人とも、私が美味しい出前を取るので仲良く仕事をしませんか?」
二人の前に、さっとリーブが美味しそうなケータリングのチラシを滑り込ませた。
「今日は二人とも熱心なので、私のおごりです。」
えっ!ほんと!と二人でチラシの有名店の名前を見て、二人とも一もニもなくケータリングに賛成したのでした。

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