「おい、最近ヴィンを見ないぞ。」
セフィロスはオフィスの廊下で偶然会ったリーブに苦情を述べた。
別部署なので通常は会えないことが多いのだが、ここ2、3日は内線をかけても全然繋がらない。
「彼は今特殊調査なので、オフィスにはほとんどいないですよ。」
リーブが現状を伝えると、何でヴィンの内線に出る女はそんな大事なこと言わないんだ、とセフィロスがぶつくさ呟いた。
「多分、彼の事情を知らないか、叉はあなたからまた内線がかかって来て欲しいのでは。」
楽しそうににやりと笑って答えたリーブが、あなた、ヴィンセントの自宅の番号知ってるでしょう、と言い返すと、
「あれは普段使わないから効果があるんだ!」
と以外にかわいらしい答えが返って来た。
この前ヴィンセントの屋敷に勝手に上がり込んだので、自宅に電話をかける度に文句を言われているのは、口が裂けても言えない事情の一つだ。
ーでも、今は普段の手段じゃ連絡が取れない状況じゃないですかねぇ・・・
と、リーブは思ったのだが、セフィロスが既に目の前からいつの間にか消えていたので、伝えられずじまいだった。
ーまた一騒動起こしてくれますかね、あの御仁は。
だったら私の会社生活はまた面白くなるんですけど・・・と無責任な考えを巡らしながら楽し気に自分のオフィスに帰るリーブだった。
最近の実行部隊は大きな作戦もなく、地道にトレーニングの日々だ。
ある意味平和とも言えるのだが、セフィロスはオフィスの自分の席でおとなしく書類仕事をしていた。
まあ、管理職には平時でも戦時でも書類だけは変わらずにたまっていくのだ。
目の前の書類に判子を押しながら、セフィロスの頭は全然他の方へ飛んでいた。
ーヴィンのうちに押し掛けるか?でもこの前それやっちゃったからな・・・
そのあと、勝手に入るのが禁止になった気がしないでもない。
ーでも、その後一ヶ月経ってるよな・・・
その間会うことも、会話をすることも全然無かったよな・・・、と思い返す。
ーっていうか、ヴィンが平気だって言うのが信じられない!!
やっぱまだ片思いなのか?と次の書類に判子を押しながら考えるセフィロス様。
見慣れない人には、彼が真面目に仕事をしてる風景に見えるのだが、枠からはみ出たり、ひっくり返って押されている判子を見た秘書さんは少しあきれつつも、そっとしておこうと奥の部屋へ引き取って行った。
「こら、旦那!戻れ!」
知らないうちに目の前に出現したザックスの声に、はっとして物思いから戻ったセフィロス。
「最近ぼーっとしてるだろ。」
全然見えていなかった正面の人間に焦点を合わせた。
「セフィロス、この頃おかしいから訪ねに来たんだ。」
よく見ると後ろにクラウドもいる。
「余計なお世話だ。お前ら、ちゃんとトレーニングしているのか?」
いつもの感じに戻って、口うるさい様子で言い返した。
「あっ!その後ろにあるぬいぐるみ何だ?」
セフィロスの背後のスペースに、前は絶対になかった、無機質なオフィスに不似合いな巨大なモーグリのぬいぐるみが置かれていた。
「俺が小さい時好きだったものだとよ。」
とクラウドに答える。
「もしかして、名前とかつけてた?」
と、ザックスが聞くので。
「チョコボ。」
と、適当に答えた。
「モーグリにチョコボって名前つけるのか?」
とクラウドが呟く。
「なあ、セフィロス。久々に一緒に定時で上がって飲みに行こうぜ。」
ザックスがやっと本題の話題に入った。
セフィロス的には、本当は一ヶ月ぶりにヴィンセントに会いに行きたかったのだが、二人があまりにしつこく食い下がるのでしぶしぶOKする。
ーすぐ帰ってやる・・
セフィロスの心のつぶやきをよそに、会社の近くの馬肉が出る居酒屋にクラウドが誘導していった。
「最近どうよ?」
ザックスが様子伺っているのを気取られないように、セフィロスに慎重に話し掛けた。
「デスクワークばっかりだな。これといって大きい案件もないし。」
一方セフィロスはいつ帰ろうかと思っているので、時計が見える席に陣取った。
「っていうか、セフィロス大出世のチャンスを棒に振ったって聞いたんだけど。」
おい、とザックスが止める間もなくクラウドが口を滑らし、セフィロスがちょっと眉を上げた。
「多分ウータイ出撃の話だろ。」
来たビールに口を付けて、セフィロスがそれはいいんだ、と呟く。
「もしかして、黒髪美人とうまくいってないとか。」
ザックスが引っ掛けてみたのだが、図星だったらしく鋭い視線が彼の方へ飛んだ。
ー旦那って仕事に関してはポーカーフェイスを保てるのに、私生活ではからっきしだな。
だから面白いのか、と思い直してほら、クラウド出番だよ、と声をかけるザックス。
「実は俺の幼馴染みの調達課にいるティファが、最近ヴィンセントと毎日会ってるんだよ。」
彼の言葉に、セフィロスの眉がぴくっと動いた。
「子供を二人も預かって大変らしいぞ。ティファはヴィンセントがいない時に子守りに来るみたいだけど、ヴィンセントはその子供の関連している事件の調査をしているみたいだからな。」
ーリーブからはそんな情報は聞けなかったな・・・以外と極秘調査なのか?
クラウドの話を聞いて考え込むセフィロスだった。
おなかが空いているクラウドが、食べ物を注文しながらちらりと二人の飲物の様子を観察して、追加を頼んでいる。
「ちなみに、明日なんだけどさぁ。」
セフィロスがクラウドの言葉を反芻してもうこなれたか、と思いザックスが声をかけた。
「実はすっごい可愛い女の子が集る合コンがあって、セフィロスが出てくれると助かるんだけどなぁ・・・」
と話を振ると、
「どうせお前のセッティングした飲み会じゃ俺好みの女はいないだろ。断わる。」
と言って、クラウドにありがとよ、と声をかけ多めに金を置くとさっさと出ていった。
「セフィロス、何なんだよ。」
ザックスは、とっておきのヴィンセント情報を提供した割に、即行退散した彼を見て不満げだ。
「あの様子じゃ、参加は無理じゃん。」
クラウドがあっさり結論を言った。
「クラちゃんそんな言い方ないんじゃない?しかし・・・明日の合コンどうしよう・・・イケ面必ず一人は連れてくって約束しちゃったんだよなぁ。」
クラウドだめか?と聞くと、俺はさっき都合悪いって言ったばっかジャン、と言い返された。
「ヴィンセントでも誘ってみるか・・・」
ザックスは携帯を取り出し、クラウドはセフィロスの金を確認して大分多いのを見ると、ちょっとびっくりして喜んで追加を注文していた。