目的の医院があるミッドガルの場末の繁華街はごみごみしていて、人がいるであろう気配はするのだが午後一の時間はまだ本格的な活動時間ではないようだった。
人通りもまばらで閑散とした印象だ。
夜ここに来たことがある人がいたら同じ場所かと自分の目を疑ってしまうだろう。
まだ閉まっている店も多い中、セフィロスはクラウドを後ろに引き連れてまっすぐ目的の医師の住居へ向かっていった。
「こんな所に、医者がいるの?」
あまりにも汚く、雑然とした街の様子にクラウドが聞いてくる。
「こういう所だからこそだ。」
セフィロスが振り返りもせずに答えて、立ち止まり番地を確認した。
今、彼の目の前にあるビルは三階立てで、少なくともヴィンセントと同じくらいは年月を経ているのではと思われる外観だった。
ビル自体が古ぼけてすぎていてとても人が住んでいるとは思われなかったが、一階の事務所には人の出入りが見えたので、まだかろうじて使用されているのだというのは分かった。
クラウドが表の看板を確認すると、二階に目当ての医院の名前が見えた。
「やってんのかなぁ。」
地上から見上げると、窓の中は暗い感じでとても営業中とは思えない。
セフィロスはクラウドの言葉を無視して、脇の階段から二階へさっさと上がっていった。
二階の踊り場に上がると、狭いドアの横に「XXX医院」と書いてある名札が申し訳程度に掲げてある。
「こんなに分かりにくい表札じゃ、迷うんじゃ。」
クラウドが言うと、
「こういう所の医者はあんまりおおっぴらに宣伝しなくても、その筋の客が来るんだよ。」
と訳知り顔でドアに手をかけた。
扉はなんの抵抗もなくすうっと開き、セフィロスに続いて部屋に入ろうとしたクラウドは扉のすぐ側で止まった彼の背中に思いっきりぶつかってしまった。
「なっ!セフィロス進めよ。」
鼻をぶつけてかなり痛かったクラウドが大声を出す。
セフィロスはその声に初めて気付いたように、クラウドにも部屋の中が見えるように少し身体をわきに寄せた。
目の前に広がった部屋はあらゆる医院らしいものが全く無く・・・まあ有り体にいえば引き払った後の殺風景な空間が広がっていた。
「なにこれ・・・。」
あっけにとられて、クラウドが言う。
薄暗い室内に汚れた窓から昼の光が入って来て、今が昼間だというのを微かに伝えている。
「クラウド、娼婦が殺されたのはいつだ?」
ちょっと考えた様子でセフィロスが言った。
「1年ぐらい前。」
クラウドが急いで書類を確認した。
「アルツハイマーだって分かった時期は?」
クラウドが焦って書類をめくる音が静かな室内に響いてくる。
彼が情報を探し出す間、セフィロスは部屋の中を一つ一つ観察した。
一見無造作に引っ越しをしただけに見える室内だが、床にはものを引きずってできたきずや、よく見るとカルテと思われる書類が床に2、3落ちている。
ー自主的に引っ越した割には変だな。
「特に・・・書いてない。」
クラウドが呟くのと同時に、
「お前カメラ持って来たか?」
と、セフィロスが言った。
「け、携帯のやつなら。」
「とりあえず、写真撮れ。部屋全部だ。」
セフィロスの指示に従って、クラウドが写真を取りはじめるのと同時にセフィロスが電話をかけた。
ー絶対にこの部屋でなんかあったな・・・しかも後ろめたそうなことが。
他の医師も急いで調べないと、と思いつつ携帯のコールを聞いていたセフィロスだったが相手が出て勢いよく話し始めた。


「ルミノール試薬?」
セフィロスからの電話でヴィンセントが思わず言い返した。
場所はちょうど警察本部。
ルクレツィアの叔父叔母に会ってからまっすぐやってきたのだ。
「何か物騒だな。」
ちょっと笑いながら、隣にいる警官に声をかけてその場から席を外した。
廊下に出ながら彼の話を聞いている表情は少しずつ真剣になって来て、
「そうしたら、私も一人訪問した方がいいな。そうすればちょうど三人一遍にできるだろ。」
と答えた、
電話はしばらく続き、セフィロスから事情が分かる程度に話を聞いてからヴィンセントは電話を切った。
部屋に戻ると、先程の警官がヴィンセントに急いで話しかけて来た。
「すみませんが、ちょっと用事ができてしまったので今日はこれで。」
席を立つ彼に、ではまた、と声をかける。
「そういえば、ルクレツィアちゃんはもう話ができるようになりました?」
「もう大丈夫だと思いますよ。」
じゃあ、今度そちらへ行きます、と言って警官は慌ただしく部屋を出ていった。
ヴィンセントも続いて部屋を出て、その辺の警察官に声をかけた。
「鑑識課はどっちだ?」
忙しそうに方向を指差した彼に、ありがとう、と答える、
携帯をかけながら、急いでその方向へ向かっていった。
「もしもし?」
相手が出たらしく、ヴィンセントは鑑識課の表札を見落とさないように話し始めた。
「すみません、急ぎなんでここの試薬を分けて欲しいんですが、どう言っとけばいいですか。あなたの名前を出しちゃっていいですかね。」
電話の向こうの警視総監代理が笑って、鑑識課に言っておく、と返答してきた。
すぐに電話が切れて、目の前に鑑識課の部屋が見えた。
ー大丈夫なのか?
部屋に入ると、白衣の男がちょうど受話器をおいた所だった。
「すみません、試薬を分けて欲しいのですが。連絡来てますか。」
とヴィンセントが言うと、男はまじまじと見て、
「ああ、XXXさんが言ってた赤目の美形さんね。」
今連絡ありましたよ、と彼に背を向けて戸棚の鍵を開けだした。
ーどうやって私を説明したんだ・・・
無事に目的の薬品を手に入れたが、気になる疑問点が出てきてしまったヴァレンタインさんでした。

Back/Next

The Hikaru Genji Methodの案内版へ