ヴィンセントはルクレツィアの通っている学校に思わず立ち寄っていた。
ー余計なお世話って感じだけどな・・・
と思いつつもちゃんと彼女がいるのか心配で、校長室に足を運ぶ。
職員室の隣にあるその部屋をノックして、反応のないドアを開けると誰もいなかった。
と、隣の部屋から人が話ながら出てくるのが見えた。
「やっぱりあの人の娘だわ。どこにも行く所がないのに、手を差し伸べてもすがろうともしない。」
「そんな事、亡くなった人に対して言うもんじゃない。」
会話の内容からして聞こえているのはまずいと思い、ヴィンセントは身を隠そうとさっき開けた誰もいない校長室に身を隠した。
「とにかく、私はあの娘を引き取りますからね。」
「別に嫌だったらいいと、校長先生が言っていたじゃないか。
引き取り手が見つかるかもしれないとも言っていたし。」
そのまま通り過ぎると思った夫婦はちょうど校長室の前にある椅子に腰掛けたようだ。
ー・・・よりによって・・・
本当は知りたくない詳しい事情が耳に入って来る。
「こんな時に嫌だっていったら、世間体も悪いし。しかも、私にとっても大事な姪っ子が、あの伯母に似てくるのはなんか我慢がならないのよ。」
相手の男は引き取られる姪がどうでも良い感じで、適当に相づちを打っていた。
ー早くどいてくれないかな・・・
変に部屋の中で立ち聞きする位置になってしまって、どうしようかと思っていたら、校長先生らしき人が出てきて夫婦に近付いていった。
ちょっと白髪が混じっている髪をきっちり結い上げて、でも威厳とかわいらしさが感じられる女性だ。
「ルクレツィアちゃん、今見つからないので、ちょっと待って下さいな。」
ーえっ、あの子今日も教室にいないのか!
ちょっとちょっと、ちゃんと学校行くって言ったからうちで一時的に引き取ったんだぞ、と思っいつつ責任を感じていると、彼女を引き取ろうとしている叔母夫婦も校長先生に向かって抗議しているのが見えた。
「大丈夫です。ちょっとトイレに行ってるだけかもしれないので。」
取りあえず、応接にお戻り下さい、と夫婦を送ると校長先生はヴィンセントが隠れている校長室へ向かってきた。
ーうわっ!やばいな。
ヴィンセントが部屋の中で後ずさって、逃げようと職員室へ抜ける扉を確認した時、
かたん、
という音が足下の方でした。
ー?
音の方をさっと確認すると、人影が窓際でうずくまっているのが見えた。
「ルクレツィア?何してるんだ?」
窓の光に照らされた、茶色いつやつやしたセミロングの髪を見てびっくりして声をかける。
呼ばれたのでルクレツィアは仕方なく、そおっとヴィンセントの方を向いた。
「ちゃんと授業に出るって約束したばっかじゃなかったけ?」
彼女と同じ目線になるように、しゃがんでその場で話しかけた。
校長室は今は誰もいないせいで照明は無いが、窓から入ってきている弱い日の光で部屋の中の様子はよく見えた。
ヴィンセントの方を見ながら、かなりまずいと思っているルクレツィアの表情がばればれで、どうも怒る気にはなれない。
「だって・・・あのおばさんの所に行かなきゃいけないかどうかって、確かめたかったし・・・」
ーそんな嫌なのか?
まあ、さっきの夫婦の会話を聞いていたら確かに歓迎はされていなそうだったが・・・
でも、既に彼女の弟を引き取ることになっているし、現在唯一の肉親のあの夫婦へ身を寄せるのが普通だろう。
ヴィンセントに同意して欲しいのかすがるような目をしているルクレツィアに、声をかけようと口を開こうとした瞬間、
「ルクレツィアちゃん、ここにいたのね。それと・・・随分大きな生徒さんが今日はいること。」
ぱちりと電気がついて、ドアの側に校長先生が立っていた。
「す、すみません。勝手に入って。」
ヴィンセントが立ち上がる。
ルクレツィアもバツが悪そうに、校長先生を見ながらヴィンセントの側に寄っていった。
「叔母さん達がきているけど・・・その様子じゃ会いたくなさそうね。」
ルクレツィアの顔を見て、先生がにこっと笑う。
彼女の笑顔につられて、ルクレツィアの表情が少し和らいだ。
「あと、そちらの大きな生徒さんは、タイミングが悪ければ不審者として警察に通報することもありますから。気を付けて下さいね。」
ヴィンセントがはっとして慌てた表情をしたのを見たルクレツィアが、くすくす笑う。
「本当にすみません・・・。一応受付はしてきたんですが・・・」
「まあ、あなたのような素敵な人が、うちの生徒に変なことをしに来るとは思いませんけどね。」
そこにある椅子に座るよう二人を促しながら、彼女も座った。
ー不審者ってそういうたぐいの疑いなのか?
自分がルクレツィアに対して戸惑っている感情を考えると、あながち校長先生の言葉もきっぱりと否定できない気がして、さらに恥ずかしくなるヴィンセントだった。
「で、お二人ともなんで私の部屋にいらっしゃたのかしら。」
ヴィンセントとルクレツィアが落ち着いたのを見計らって、先生が声をかける。
「いえ、私はルクレツィアが大丈夫か様子を聞こうとここに来てみたのですが・・・」
ヴィンセントがルクレツィアに向き合って目を見た。
「会ったからこの際言うけど、私との約束が守れないのならうちに居れなくなるよ。」
ルクレツィアの目があせった。
「だって!今日は叔母さんが来るって言うから、本当に私を心配して引き取りたいのか
聞いてみたかったの!」
「立ち聞きして?」
ヴィンセントがさらりと口を挟む。
黙ってヴィンセントを睨むルクレツィアに、先生が助け舟をだした。
「でも、ヴァレンタインさんも立ち聞きしてましたよね。」
「あっ、あれはちょっとタイミング悪くて・・・」
そうよ!ヴィンセントも私と一緒じゃない!、と無邪気に彼を責めるルクレツィアを校長先生は微笑ましく見ていた。
本当は午後の授業がとっくに始っている時間だ。
廊下は誰もいなくてしんと静まりかえり、遠くの教室で朗読をしているのか低い人声がかすかに聞こえてくる。
「どちらにしても、待たせているおばさま達にあなた達は挨拶をしないといけませんね。」
ルクレツィアとヴィンセントをそれぞれ見て、校長先生が席を立ったので、二人とも彼女の後について部屋を出ていった。


一方セフィロスとクラウドは二人で手分けして、被害者のかかりつけの医師を訪問することにしていた。
「被害者は5人。関係のある医師は・・・」
「四人だ。」
クラウドの言葉を遮ってセフィロスが答えた。
「最初の被害者と、2〜3人目が一緒、あのがきんちょの母親の分と、最後の真っ昼間の殺人の分だな。」
「どれから行く?」
クラウドが聞いてくる。
「お前どこに行きたいんだ?」
セフィロスが反対に言い返して来た。
クラウドはセフィロスがざっくりメモした事件の整理書類をまじまじと見た。
ミッドガル市の地図の中にかかりつけ医師の住居が赤く印がついていて、地図の後ろに着いている書類にはそれぞれの医師のプロフィールが簡単に書いてあった。
「取りあえず、一番最初の被害者から。」
特に意図もなく、クラウドが言うと
「じゃ、早速行くぞ。」
とセフィロスが部屋を出て、クラウドも急いで後についていった。

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