二人ともちょうど昼ご飯を食べ終わった頃にクラウドが入って来て、三人はこれからの方針を話し合う事にした。
「今日検死していた5番目の被害者はセフィの言う病歴がなかった。」
クラウドがぴったりと扉を閉めてソファに座ると、ヴィンセントが鞄からファイルを取り出した。
慎重に資料を選んだ検死報告書には色々書いてあったのだが、
『遺伝型アルツハイマーを遺伝子療法にて治療歴あり』
という部分はヴィンセントが引いたらしいマーカーですっと色がついていた。
「5番目の被害者の男性以外、4人の女性被害者は文言は多少違うけど、同じような内容があった。」
それぞれの検死報告書の該当部分を見せて言った。
良く分からずにクラウドはヴィンセントの出した書類を凝視している。
「ルクレツィアの母親もそうだったのか?」
セフィロスが聞くと、ヴィンセントが無言で頷いた。
「アルツハイマーって、あの痴呆症になるやつ?」
クラウドがとりあえず聞く。
「認知症だ。遺伝性アルツハイマーの場合は血縁者がその遺伝子を持っていて、その人間からある条件でアルツハイマーに関わる遺伝子を受け継いだら発症するんだ。遺伝子型のアルツハイマーの場合は発症年齢が早いのと、罹患する確率がかなり高くなる点で一般的なものと違っている。」
セフィロスがさらりと説明した。
「遺伝型アルツハイマーは遺伝子というか、染色体の診断で調べる事ができるんだ。特に親が遺伝型を持っていると分かっている場合は、はっきりと将来罹患するかしないか分かる病気だ。」
ヴィンセント補足した。
「直るの?」
クラウドが聞いた。
「決定的な治療法はない。」
セフィロスが即答した。
「かかったらもう症状が進行していくだけだ。だから・・・自分の染色体を調べて、遺伝型と分かってしまった人間は・・・かなりのストレスになるだろうな。」
セフィロスがざっと説明した。
「わらにもすがりたい思いで患者が最新の治療方法を探す可能性はある。」
ヴィンセントが付け加える。
「で、宝条の所に駆け込んだと。」
セフィロスがさらりとまとめると、
「論理の飛躍だな。」
ヴィンセントがくすりと笑って言った。
「でも、目指す方向は悪くないだろ。」
セフィロスが言い返す。
「まあ、その線もやってみますか。」
ヴィンセントがソファに座り直して、レポート用紙を取り出し、ペンでさらさらと調査事項を書き出し始めた。
1.被害者の病歴とアルツハイマー治療の経緯を調べる為に、かかりつけの医師へ話を聞きに行く。
2.宝条とクローン研究所の関係を洗い出す。
3.他に被害者に共通点がないか、警察と連係して調べる。
4.
数字を書いたところで、ヴィンセントの手が止まった。
「どうしたんだ。」
セフィロスが声をかける。
「この調査事項だと、全然事件には関係ないことばっかりになるな・・・と思ってさ。」
「だって、事件の現場からの証拠じゃまだ犯人までたどれてないんだろ。」
当然のようにセフィロスが手詰りの現状を指摘してくる。
「それは、そうだけど・・・」
目の前のレポート用紙を見ながらヴィンセントは迷っていた。
クラウドは特に言う事もなく、どうするんだろう・・・、と二人の様子を見守っている。
まだ昼過ぎなのだが、天候不順な最近の空模様を映し出して、上空全体を厚い雲が覆っている。
ー5件も殺人が起こっていて、警察から正式に依頼を受けては悠長に可能性の有る無しを精査している間もないな。
ヴィンセントがペンを置いて口を開いた。
「警察との連絡役は私がする。
セフィは、クラウドと組んで患者の情報から探れる線を調べてくれ。
私は宝条も含めた過去の新羅カンパニーが持つ情報と、警察から得られる情報を集める。」
ソファを立って、打ち合わせは終わりだ、という風にヴィンセントがセフィロスを見た。
ーお前のアルツハイマーの推理、一人老女がいるのに発症してないのはおかしいから。
セフィロスにそっと囁いて、ヴィンセントはさっさと部屋を出る。
ーそれも調べろってことだよな。
ヴィンセントが出ていったドアを見ながらセフィロスは、はてさて、どうするか・・・と思っていた。