警察本部はいつの間にか名付けられた、「ミッドガルのジャック・ザ・リパー事件」で大荒れに荒れていた。
この前の白昼堂々の犯行の犯人も見つからず、マスコミも少しずつ警察の先が見えない捜査に市民の不安を煽り立てるような記事をのせる所も増えてきた。
そんな中、ヴィンセントは今日も警察本部へ来て5番目の被害者の検死結果と、セフィロスが気になると言っていた被害者女性のの病歴等の情報をあさっていた。
ーセフィもよくそんなこまかいとこに気付いたよな。あの両親の子どもならさすがと言うべきか・・・
絶対一回は見ているそれぞれのカルテをセフィロスの見た点に注意して見直すと、ヴィンセントは思わず息をのんだ。
と、彼の携帯が鳴る。
書類を貸してくれた検死官にすみません、と書類を渡して検死解剖室から廊下に出た。
「リーブ、どうしたんだ。」
回りにあたふたと廊下を歩く人が次々と通る中、小声で話す。
「警察から正式に事件の捜査協力依頼が来ました。被害者の護衛ではなくて、事件解決の為の協力依頼です。」
ヴィンセントの目がちょっと見開いて、携帯を軽く握った。
「で、どうするんだ。」
「あなたはいいんですが・・・。セフィロスは実行部隊で、しかも指揮官なので外そうかと思っているんです。」
ー・・・相変わらず心配性だな。
ヴィンセントはちょっと笑いそうになったのを押しとどめて答えた。
「セフィは大丈夫だよ。っていうかあいつがいないときっと事件の解決は時間がかかるんじゃないかな。」
彼が気付いた被害者の病歴を思い出しながら言う。
「でも、彼には彼の仕事があるんですよ。」
「ちゃんと代理を立ててきたんだろ。」
ヴィンセントの反論にそうですが・・・と口籠るリーブには彼なりに心配することがあるんだろう。
「代理は誰だ?」
ヴィンセントはリーブに聞いた。
「実戦はザックス、事務処理は秘書です。」
「今実行部隊で重要な懸念事項、実行中の案件でセフィロスが必須でいなければならないものはないよな。」
「今の所は・・・、ですが。」
「現時点でセフィロスが協力してくれることについてうちの問題は?」
「現時点なら、ないです。」
リーブの答に、じゃあ大丈夫だ、と言って返事を待たずに携帯を切った。
ーあんまり色々言っても、リーブが困るだろうからな。
ヴィンセントはさっきのカルテの続きを見ようと、検死官のいる部屋へ戻っていった。


一方、オフィスでヴィンセントに昨日渡された新聞記事と、クラウドとリーブがピックアップした資料を並べてセフィロスは考え込んでいた。
クラウド達がが抜き出してきたのは、ほとんど事件に関連ある記事だった。
ヴィンセントに昨日見せてもらった資料は殺人事件の関連資料とするには不自然だが、襲われた被害者の関連性という観点ではひっかかる点がある。
ーまだ全体像は分からない・・・でも絶対なにかある。
朝から眺めているこれらの資料を前にして、未だに何も思いつかなかった。
時計を見ると昼を大分過ぎていた。
ーこのままだと煮詰まりそうだな。
警察本部に行ったヴィンセントは何か役に立つ事があれば、すぐに連絡をくれるはずだ。
セフィロスは秘書に、クラウドを呼び出してくれ、と頼んでデスク足をのせて腕を組み目を閉じた。
「セフィロスさん、食事はいいんですか?」
秘書が聞いてくる。
う〜ん・・・、と迷っていると外で人の気配がしてきた。
ちらりと片目を開けたら、ノックもせずにカチャリとドアが開く。
「だから、ザックス私からも宜しく頼む。」
扉の奥からヴィンセントの姿が見えて、会話の言端が聞こえてきた。
「あっ、セフィロスごめん。邪魔だったか?」
彼に見られていたのに気付いて声をかける。
「いや、煮詰まってたところだ。」
じゃ、と扉の外にいるらしいザックスに言ってヴィンセントが部屋に入ってきた。
「食事したか?」
ヴィンセントが聞いてくる。
「いや、まだ。」
という答を聞いて、よかった、と手に持っていた袋をテーブルにぽん、と置いた。
さっきのザックスとの会話が気になるセフィロスだったが、取りあえずなんだろうとデスクから立ち上がる。
「フカヒレと、トリュフなんだ。」
好きな方選べよ、と言って紙のパッケージに入った丼ものを出した。
セフィロスの目を見てちらりと笑顔を向けた後、一緒に食べはじめるかと思ったら、彼の後ろにいた秘書にいつのまにか話しかけている。
にこやかに話しかけるヴィンセントの様子は、まあ普通に魅力的な男性に見えるので、秘書さんはちょっと顔を赤らめて嬉しそうに答えていた。
ー・・・何だ・・・今までにないヴィンの異様なまでの爽やかさと愛想の良さは・・・
秘書さんが食事に出かけてから、セフィロスと二人っきりになるとヴィンセントの表情は元に戻った。
「何八方美人やってるんだよ。」
フカヒレ丼を選んだセフィロスがちょっと不機嫌そうに、割箸をぱちんと割って言う。
もう一方のパッケージを開けたヴィンセントは、ご飯にトリュフを少しのせてスプーンで一口食べてから口を開いた。
「例の連続殺人事件、正式に警察本部から捜査協力の依頼がきたんだ。セフィにも手伝ってもらうから。」
だから、根回ししてたとこ、と言って二口目を食べた。
「で、この高級な昼飯は?」
答は分かっているのだがあえて聞いてみる。
「よろしくおねがいします、セフィロス。」
居住まいを正してきちんと頭を下げてヴィンセントが挨拶をしたあと、セフィロスの目を見てまたにこりと笑う。
「ま、別に頼まれなくても興味はあるからな。」
ヴィンセントに気取られないように嬉しそうな感じで、セフィロスは大きなフカヒレをぱくりと食べた。
「でもさあ、こんな事しなくても俺にキス一つすれば、絶対言う事きくとか考えなかったのかよ。」
セフィロスが食べ終わりながら言う。
「そういう仕事の頼み方はしない。」
「ふうん・・・そうかよ。」
絶対キスの方が良かった・・・食べ物で釣ったって本質は変わらないじゃないか、とぶつくさ言いながらも、彼の笑顔と美味しいお昼ご飯を頂いたセフィロス様でした。

 

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