「結局セフィががたがた言うからルクレツィアを迎えに行けなかったじゃないか。」
文句を言いつつヴァレンタイン邸に着いて、ドアを開けると思った通りルクレツィアはもう帰って来ていた。
「ただいま。今日は学校さぼらなかったかい?」
迎えに出て来たルクレツィアに話し掛けるヴィンセント。
「今日は授業が面白かったから大丈夫だったの。マリンも一緒よ。」
居間の方に目を向けるとマリンが座っていたので、ありがとう、とヴィンセントは彼女に言った。
ルクレツィアの頬に軽くキスして、
「ちゃんと学校に行った御褒美にケーキを買って来たから。」
と彼女に箱を渡す。
やった!と喜ぶ女児二人の声を聞いて、
ー甘い・・・ヴィンはガキに対して甘過ぎる・・・
と一連のやり取りを見ていたセフィロスは、あきれたような目で見ていた。
ー俺があの年の頃は学校に一日ちゃんと行ったからってケーキなんてもらえなかったぞ・・・
とヴィンセントの教育方針に疑問を持つセフィロス様。
「あーー!ヴィンセント、いちごのタルトは買ってこなかったの?」
ルクレツィアが大声をあげる。
「えっ?好きだった?」
ヴィンセントがびっくりして彼女に聞いていた。
うん、と頷くルクレツィア。
彼が謝る前にセフィロスが口を挟んだ。
「一日学校に行ったぐらいで好物のケーキが食べられるはずないだろ。」
ルクレツィアとマリンのいる居間に姿を現す。
「セフィロスって頼りになるけど、意外に意地悪ね。」
ルクレツィアが負けずに言い返した。
「意地悪じゃなくって、未成年に対する教育だ。」
うわ〜、ルクちゃん強い!とマリンは思ったが相手がセフィロスなので取りあえず黙っておく。
「ルクレツィアもタルト・フレーズが好きなんて初めて知った。」
彼女がセフィロスに言い返す前にヴィンセントが言った。
「セフィロスも小さい頃から好きなんだ。」
二人の言い合いになる前にナイスタイミングで彼の言葉が入って、大人しく食卓に着くセフィロスとルクレツィアであった。
「おばあちゃんがよく作ってくれて美味しかったから好きなのよ。」
ルクレツィアがセフィロスに向かって秘密を明かすように言う。
「俺は母親が作ってくれた唯一のデザートだからだ。しかも美味しかったしな。」
セフィロスの言う言葉にピクッと反応したのはヴィンセントだった。
「セフィ・・・ルクレツィアって料理できたのか?・・・」(←ちょっとヴィンちゃん・・・by作者)
私はできるわよ!という小さなルクレツィアを無視して、ヴィンセントにセフィロスが答える。
「一応、母親の自覚が少しはあったらしいからな。」
マリン達がケーキを食べるのに合わせて入れてくれてた紅茶を口に含んで答える。
「で・・・美味しかったって・・・」
ヴィンセントの目がキラキラしているのを見てセフィロスは、あーー、とため息をついた。
「言っとくけどな、他のやつが食ってもうまいかどうかは知らないぞ。一応俺は作れるけど。」
ええーー!作れるの!とヴィンセントとルクレツィアが一緒に言ったのを、マリンはすっごいうるさい食卓だと思ったに違いない。
「セフィロス!食べたい!」
「このケーキ屋のタルト・フレーズよりも美味しいか?」
二人とも興味津々でセフィロスに迫ってくる。(笑)
「食べたかったら、俺の機嫌を取る事だな。気が向いたら作ってやる。」
うっ・・・と行動が止まったヴィンセントと、ニコニコーッとセフィロスに笑いかけたルクレツィアであった。
ーいちごのタルトってそんなに美味しいものだっけ?
今いち三人の会話から乗り遅れているマリンは、今度ティファに聞いてみよー、と思ったのでした。


マリンもセフィロスも自宅へ帰っていった居間で、ルクレツィアとヴィンセントが二人で食卓を片付けていた。
今日買って来たケーキの残りはマリンが持っていったので、もしかしたら夕食にバレットの口に入っているのかもしれない。
「ルクレツィアは学校は面白いかい?」
ヴィンセントが聞いてくる。
ルクレツィアは驚いた風に彼を見た。
どうしたの?とヴィンセントが優しく聞く。
「今まで、学校が面白いかどうかって聞いて来た人がいなかったから。」
「で、面白い?」
重ねて聞くと、
「よく分からない。」
と答えが帰って来た。
「よく分からないなら、分かるまで行ってみた方がいいね。」
ヴィンセントが感想を言う。
「どういこと?」
ルクレツィアが返すと、
「よく分からない事にすぐに結論は出せないから。」
と答が帰って来た。
「でもね、面白くない事もあるのよ。授業を担当する先生によって。」
ルクレツィアが言い足すと、にっこり笑ってヴィンセントは口を開いた。
「それは先生が面白いか、面白くないかで、教える事がつまらないってことじゃないんじゃないか?」
「そうかなぁ・・・、よく分からない。」
彼女が答える。
そういうときは私に聞きなさい、とヴィンセントが言う。
「私がいない時はセフィでも大丈夫だし。」
ルクレツィアが分かったわ、と答えると居間の時計が10時の鐘を静かにぼーん、と鳴った。
「もう寝る時間じゃないのか。」
ヴィンセントがルクレツィアを寝室へ送ろうとする。
彼女がまだ何か言いたそうだったので、ヴィンセントの動きがちょっと止まった。
「私、この事件が終わったらおじさんの所に行かなくちゃいけないのかしら。」
ヴィンセントの目をじっと見て、聞いてきた。
「それは、事件が解決してからゆっくり考えよう。今はまだいいんじゃないか。」
おやすみ、と彼女の寝室のドアをぱたりと閉める。
その後暫く、ヴィンセントは側の壁に寄り掛かって少し考え事をしているようだったが、すっと顔を上げて自分の寝室へ引き取っていった。

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