次の日は雨が降っていた。
迎えに来てくれたマリンに、よろしく、とルクレツィアを送り出そうと玄関を開けると
「今日はどこへ行くつもりなんだ?」
とセフィロスがちょうど玄関先にいて、出て行くルクレツィアに手を振りながら話しかけてきた。
すぐ側にある雨にぬれた紫陽花は、紫から青色に変化する途中で、なんとも言えない微妙な色合いをしている。
「警察本部の資料館。調べたいことができたからな。」
すぐ出るから、と声をかけてヴィンセントが彼を玄関に入れた。
警察本部に入るまで、二人とも無言で資料館への道を歩いていた。
ヴィンセントが何を考えてこの事件を熱心になっているのか、わかりそうで分からない。
ストレートに聞いてみてもいいのだが、言い様にはぐらかされそうだった。
「セフィ、着いたよ。」
ヴィンセントに声をかけられ、目の前のビルを見た。
ーここ、誰でも入れるけど全部は見られないんだよな。
セフィロスが自分が入ったことがある場所を思い出している途中で、ヴィンセントに声をかけられた。
「セフィ、行くよ。」
地下の階段を案内の後について迷うことなく進んでいくヴィンセントだった。
複雑に曲がりくねって、鍵を開けて通っていく廊下を3つぐらいくぐり抜けたか・・・という場所にめざす資料館はあった。
「使い終わったら、必ず連絡して下さい。迎えに来ますから。」
案内の人間が去っていって、セフィロスとヴィンセントは大量のファイルキャビネットが林立する空間に取り残された感じだった。
「ヴィン。どこを調べるんだ?」
「15年前の資料だ。」
薄暗い照明の中ヴィンセントが言葉少なに答えて、二人で資料を漁り始めた。
15年前といえばセフィロスはまだ正式に任務に就いていない頃だ。
「ていうか、ここ資料多すぎるぞ!」
1年間分の資料をとりあえずくまなく調べるのだが、量をざっと見ただけでセフィロスは自分のやる気が一気に萎えてきた。
警察本部の土地面積全部を使っているのではないかと思われる広い空間に、15年前の事件を収納しているキャビネットが数列、端が見えない程ずうっと続いている。
「コンピュータの検索とかで済ませられないのか?」
セフィロスが聞いてくる。
「別にそれでもいいけど、正確さに欠けるからな。」
ああいうのは検索ワードをかける人の主観とか、資料をオンラインに入れる人間の判断に任されているから生の資料とはちょっと違うんだ、といいながら目と手は素早く資料を探していた。
ーあんな一瞬でよく分かるよな。
セフィロスは15年前の資料を12月分からキャビネットの引き出しを開けて資料を引っぱりだしている。
ヴィンセントは1月分から探しているので逆方向だが、人間とは思われない早さでどんどん次に進んでいた。
けっして文字を読むのに支障がある程暗いわけではないのだが、二人以外誰もいない空間に蛍光灯が灯ってただただ資料を開ける紙の音だけが響く様子は薄ら寒い感じで、どことなく資料室全体が無気味な雰囲気に思われる。
セフィロスは12月分は取りあえず調ベ終わったので、ヴィンセントはどうしているかと思って目を上げた。
二人の間にはまだかなりの数のキャビネットがあって、全然一日では終わりそうもない量だ。
疲れてひと休みするセフィロスだったが、ヴィンセントは全く休息を取らずに2月の半ばの資料の方を既に調べ始めていた。
引き出しから丹念に一つづつファイルを取り出し、真剣に目を通しているヴィンセントが次のファイルを取り出そうとした時に、その手をふわりとつかまれた。
「ちょっと休め。」
振り向くとセフィロスが後ろから抱き締めるように立っていた。
「ヴィン、すごい切羽詰まった顏してる。」
振り向いた顔はぱっと見はいつものヴィンセントだったが、よく見ると瞳にちょっと影が差して顔色もいつもよりも白い感じがした。
何かを言おうとしていたのか、唇が少し開いている。
セフィロスは掴んだ手はそのままで後ろからヴィンセントの唇にキスをした。
開いた唇にそのまま舌を入れて彼のとからめると、ヴィンセントの目が少し見開かれ、掴まれた手を離そうと腕が動く。
久しぶりに触れる唇は柔らかく、気持ちよくてずっと唇を離さずにヴィンセントを抱き締めようと掴んだ手を離し、彼の身体を軽く自分の方へ向かせた。
ちょっとした動きなのに、彼の身体ががくりと沈んでセフィロスに抱きとめられた。
「ほら、思ったより疲れてるだろ。」
ヴィンセントに答えさせずにまた唇を重ねた。
立っているのがつらそうだったので、優しく床に座らせてずっとキスは続けている。
キャビネットに寄り掛かっているヴィンセントの頭を片手で軽く抱き、空いた手がヴィンセントのシャツのボタンを外し始めた。
「!!」
ヴィンセントの手がセフィロスを止めようと腕を掴む。
お構い無しにボタンを全部外して、彼の胸を撫で上げた。
「あっ・・・セフィっ・・・」
唇を離して声を出すヴィンセントの口を又塞ぐ。
シャツを全部脱がせて身体を撫で回すと、ヴィンセントの喘ぎ声がふさいだ唇の奥から聞こえてきた。
目を開けるとヴィンセントのぎゅっとつぶっているまぶたが目の前に見えた。
「今日はあんまり抵抗しないんだな。」
ヴィンセントの耳に呟いて、首筋にキスした。
んっ・・・とヴィンセントが震える感触が感じられる。
唇をそのまま下の方へ移動しようとしたら、
「セフィ、私が疲れているのを思い遣ってくれているんじゃないのか?」
とヴィンセントが言ってきた。
「そうだけど、あんまり久しぶりだしな。」
セフィロスがヴィンセントの目を見つめてくる。
「・・・久しぶりって何が・・・」
じっと見つめられて少しうろたえつつも、ヴィンセントが彼を睨み付けてきた。
「そんな顔したって俺には効かないぞ。」
セフィロスが顔を近付けてきて、軽く唇を触れあわせてきた。
「お前が欲しい。」
セフィロスの声が低くヴィンセントにささやきかけてきて、思わず身体がぞくっとした。
床のコンクリートにいたわるように頭を抱きかかえられて、押し倒される。
首筋に丁寧に口付けをされて、ヴィンセントは思わずセフィロスの頭を押し返そうとした。
「あっセフィ・・・だめだっ・・・」
彼の動きを無視して、セフィロスの口付けはヴィンセントの胸の方へ一直線に降りてきていた。
「あっ・・・はあんっ・・」
乳首を口に含まれ、生暖かい感触に声をあげる彼に反応して、少しづつ服を剥がしはじめるセフィロスだった。
と、ヴィンセントがセフィロスの肩をやわらかく押し返してきた。
セフィロスが目をヴィンセントの顔の方へ向ける。
「セフィっ・・・んんっ・・・誰か来る。」
耳を済ませると微かに遠くの方から足音が聞こえてきた。
思わず警戒心をむき出しにして、ヴィンセントを抱き締めるセフィロス。
足音は何ら迷うことなくこちらへ近付いてきているようだった。
「セフィ、見てきてくれないか?」
ヴィンセントが口を開く。
ー・・・こんなチャンスに。侵入者殺す!
セフィロスの表情が剣呑になった瞬間、ヴィンセントの手が優しく彼の髪を撫でた。
「見てきてくれたら、いいことしてあげるから。」
えっ�!と、セフィロスの顔が緊張感なくほころぶ。
「ヴィン、いいことって何?」
もう全然周りは見えていないセフィロス。
「セフィ、わかんないからいいことなんだよ。」
悪戯っぽく笑うヴィンセントの笑顔にまんまとつり込まれるセフィロスであった。(笑)
セフィロスが身体を起こして正宗を構え、ヴィンセントが服を直しはじめる。
と、一部蛍光灯が不安定に点滅し始めてただでさえ薄暗く見えるフロアがさらに視界がぼんやりしてきたようだった。
軽くヴィンセントにキスして、セフィロスは足音のする方に忍び歩いていった。
ーここは許可のあるやつだったら、誰でも入れるからな。
でも、セフィロスはここに入るのは初めてだし、どんな権限がある人が入れるのかも知らない。
自分が近付いていることを知られるのもよくないかと思い、キャビネットの影に隠れながら足音のする方へ向かっていった。
耳をすませつつ対象の足音に近付くように歩みを進めていくと、かくんと足音が横に曲がり、別の方向に行くのが分かった。
ーちょっと待て!
セフィロスがその足音を追いかけるようにキャビネットの列を曲がる。
耳に聞こえる音を頼りについていったら、
ザサッ・・・ガサッバサッ・・・
と自分が来た方向から大量の書類が落ちる音が聞こえてきた。
ヴィンセントのことだから変なことは無いとは思いつつ、心配しながら自分は足音の主を追いかける。
ここにいるかと思ってキャビネットの列を曲ったら、目指す場所に人の気配も無かった
ー・・・なんなんだよ。
追いかけていた人間を探すように周りを窺うと、
「ヴァレンタインさん、どうしたんですか?」
と遠くから誰かの声が聞こえてきて、一瞬でセフィロスはヴィンセントの所に戻ることに決めた。

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