ヴァレンタイン家に帰った三人を待っていたのは、ティファとクラウドの安堵した表情の歓迎だった。
戸惑うルクレツィアに
「ありがとうって、言っておいで。」
と耳もとに囁いてヴィンセントが送りだす。
何も言わないセフィロスにも、クラウドに声をかけてこいと追い出すヴィンセントだった。
「ルクレツィア突然いなくなっちゃったから、びっくりしたのよ。」
マリンが彼女に話しかけている。
近くにデンゼルもいて、ヴィンセントを見るとちょっと頭を下げた。
「今日は食事私が作ったから。」
ごめん、勝手に冷蔵庫の中のもの使っちゃった、とティファがヴィンセントに言ってみんなに声をかけると、珍しく人数の多い夕食が始った。
食事を取り分け、自然ににぎやかに話が始る。
その光景を横目に、ふっとティファがヴィンセントに言った。
「ヴィンセント、やっぱり今のままはよくないと思うの。」
ヴィンセントが彼女の方を見ずに答えた。
「それってやっぱりルクレツィアのことか。」
周りに気付かれないよう小声で目をあわせないように、話を続ける二人。
食事にはマリンとデンゼルがいるせいか、かなり騒々しかった。
ルクレツィアは学校を抜け出したことを全く気にしていないようで、マリンと楽しそうにふざけあっている。
セフィロスはクラウドから今日の出来事を聞いていて、その横でデンゼルがクラウドの話を何故か熱心に聞いていた。
もう7時過ぎで、外は暗い。
夜遊びをするには今日は肌寒い気候だったので、人が多くて暖かい今日の食卓はさながら部屋の中心にある暖炉みたいに落ち着く光景だった。
「きゃっ、何するの!」
「ごっ・・・ごめん・・・」
ルクレツィアの声がしたのでヴィンセントが目をあげると、デンゼルが食事を大皿から取ろうとしてバランスを崩し、ルクレツィアの服にトマトソースをちょっとこぼしてしまったようだった。
「すぐしみぬきしないと。」
ティファが席を立った。
「替えの服あったかな。」
とヴィンセントがクローゼットの方に行こうとしている。
「なんかお父さんとお母さんみたいだな。」
話の途中だったが、クラウドがぼそっと言う。
「・・・」
コメント不可のセフィロスであった。
食事が終わったタイミングでバレットがマリンとデンゼルを迎えに来て、ちょうどいいのでクラウドも寮に帰ろうとしていた。
「セフィロスも帰るか?」
クラウドに言われて玄関の方へ向かうと、
「セフィ、ちょっといてくれないか。」
とヴィンセントに声をかけられた。
「あのガキは?」
と聞くと、今日も親戚の所には返さないで預かることにしたらしい。
「悪いんだけど、セフィがいた方がうまくルクレツィアに話せる気がするから。」
ー俺は中和剤かよ。
でも、珍しくヴィンセントから頼みごとをされて、断わるはずもないセフィロス様でした。
ヴィンセントが昨日ルクレツィアに念入りに話をしたのは訳があった。
今日は尾行の人物の出所を洗うべくそのアジトを突き止めようとしていたのだ。
ー港の倉庫なんて、すごいお決まりの場所で脱力するよ。
自分を付けている日と、そうでない日があるとは分かっていたのだが、尾行が終わって退散して行く所を逆に付けてみたらここにきたのだ。
障害物の影から視界に人がいないことを時節確認して扉に近付く。
銃をいつでも発砲できるように構えつつ、自分の周りと扉の中を代わる代わる窺っていた。
倉庫の中を見ると、どうも尾行していた男が他の人物に話し掛けているように見えた。
ー話している相手が私の尾行の親玉か?
その顔が見えるように角度を変えつつ入り口ののぞき扉の前を動いたが、全然見えなかった。
ーちょっと中が見えるように入ってみるか?
でも、扉をあけると暗い空間に光が入ってすぐばれそうだった。
ー他に入れそうなところは・・・
窓には鉄格子、下の方に通風口、屋根には一部大きな窓がある場所がある。
ーちょっと登ってみて、無理だったらしょうがないから扉から入るか。
足場をどうやって組もうかと思ったら、お誂え向きにコンテナがいくつか倉庫の脇に積んであった。
軽々とコンテナを足場にして、倉庫の半分位の高さまでくるとヴィンセントは5〜60cm程度上の方にある鉄格子の窓を目指してジャンプし鉄格子に手をかけた。
窓枠を足場にして身体を伸ばすと、伸ばした手元に屋根がすぐあったのでなるべく体勢を低くしてよじ登る。
屋根の上から倉庫の周りをざっと観察したが、見張りの人間等はいないようだった。
ー全然警戒してないな。某国の時の黒幕の関係者かもしれないなんて買い被りすぎかもしれない。
屋根にある窓の近くにいくと中で話している様子が丸見えだったので、入るのはやめてそのまま中の人間を観察した。
一人は尾行をしていた人物、もう一人は・・・
屋根に寝転んでよく見える角度を探す。声も聴こえるように窓をそおっと開けて中の声に耳をすました。
「ボス、俺の付けている奴はかなり勘が鋭いですぜ。ちょっと注意を向けると気付いてきやがった。」
「だから気をつけろと言った。」
低い声が聞こえてくる。
ー絶対聴いたことある声だ。
ヴィンセントは自分の記憶にある音声を探し始めた。
「俺の代わりに別の奴を付けて下さいよ。」
「人員は足りないんだ。気付かれないようにすべきだったな。」
ー顔を見れば分かるかも。
ヴィンセントは窓からちょっと頭を入れてさらに音が響かないように少しずつ窓を開けて、「ボス」と呼ばれた人の顔を見られる角度探していた。
「あいつは結構気付くやつだ。ちょっと女顔で優し気に見えるけど、とんだくわせもんだぞ。今もその辺で見ている可能性も。」
彼がちょっと顔を上げて上の方を見た時にヴィンセントはビクッとして、窓から顔を離した。
ー私の顔を知っているって事は大分昔の事件の関係者・・・っていうか、なんで私が今でも女顔だって思うんだ?
自分が宝条とのいきさつでずっと見かけが27歳でいると言う事実は外部のものにはもれてないはずなのに・・・
でもここでそんなことを言う奴の顔を確認できないのはまずいと思い、慎重に天井の窓から侵入を試みた。
音をたてないように、中に入って顔を確認した瞬間に冷や汗が伝わった。
ーあいつ・・・どこかで見た。
なにか背筋に凍るような感覚を覚えて屋根を降りるヴィンセントだった。
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