調査部という部署は本当に何でもやる処だ。
自分の経験が役立だったことなんて星の数ほどありすぎて、3年も所属すると今までの人生で何が役に立たなかったかなんて検討するのもばかばかしくなってくる。
見かけの倍以上の人生を生きているヴァレンタインさんが仕事をする時は特にそうで、彼の長い人生をたな卸しして、今回の案件に役立つ物事、人を洗い出すだけでも一苦労だった。
そんな中でも、今日ヴィンセントが切ろうと選んだカードはかなりの重要な部類に入るものだ。
この前事件の検討会儀が開かれた警察本部のビルへ入り、今度は受付に名刺を見せて
「約束はないんだが・・・。」
と言ったが、大丈夫だったらしい。
四角四面で面白みのない、でもセキュリティには自身がありそうな無骨なビルの非常口に案内された。
「こちらの直通のエレベーターをお使い下さい。」
受付嬢が防火壁のような扉の鍵を開けると、奥にこじんまりしたエレベーターが見えてそれに乗った。
ビルに来る一般の人が使えるものとは違って、窓もなくもちろん外も見えない。
ビルと一緒で無愛想だが丈夫そうなエレベーターだ。
上昇が止まってエレベーターを降りた瞬間視線を感じると、いかつい顔つきの男が正面でヴィンセントの方をじっと見ていた。
男の存在に気付いてびくっとした顔をするヴィンセント。
彼の驚いた顔を見て、重厚なデスクに納まっている大柄でかなり年配の男はしてやったり、という感じでにやりと笑った。
「相変わらずですね、お久しぶりです。」
ヴィンセントが安心した表情になって少し笑って軽く会釈してから、近くのソファを勧められて腰を降ろした。
「突然の客にはいつもあのルートを使わせている。」
「誰でもびっくりしますよ。いきなり警視総監の部屋につくなんて。」
「今は代理だ。まあ、元タークスを驚かせたんだから、この仕掛けには満足した。」
はっはっは、と大声で笑う彼にヴィンセントも思わず微笑んだ。
「さて、あんなに表ルートを使うのは避けていたのに、今回はどうしたんだ?」
総監代理が聞いてくる。
「今係わっている事件なんですが、色々と私の縁者が関わっているので、情報収集に手間取りたくないんです。」
「君に依頼がいっていたのか。どういう関係でどうして?と聞いても答えてはくれないだろうな。」
総監の言葉に、残念ながら、とヴィンセントがあっさり答える。
少し間をおいて、自分のパスで見られる情報を無条件に君も見られるようにしておく、と彼が約束すると、ヴィンセントは感謝します、と言って席を立った。
「君はずっと変わらないな。」
帰りぎわに総監が声をかけると、
「そういう体質なんです。」
と軽くヴィンセントが受け流した。
「受付嬢が熱い視線を送ってなかったかね。本庁の受け付けは美人を揃えているんだが。」
総監が冗談まじりに言うと、
「年寄りなもので、気付きませんでしたよ。」
とヴィンセントが笑って、エレベーターのボタンを押した。
めったに人が使わないエレベーターはすぐに扉が開き、ヴィンセントが乗り込む。
「幸運を祈る。」
と言われて、ありがとうございます、とヴィンセントはその場を離れた。
ー相変わらず、面白い人だ。
下降するエレベーターの中で、そんなに深い付き合いもしていないのに、色々と面倒を見てくれる総監代理には、自分はどう写っているのか今度聞いてみようと思うヴィンセントだった。
屋敷に帰ってくるとルクレツィアがTVを付けっぱなしで走り寄って来た。
「また、人が殺されたの!」
彼女の不安そうな表情を和らげるように抱き締めて、つけっぱなしになっているTVを見た。
画面には警察が現場検証に集っている様子が写っていて、報道陣を追い払うように見張りの警官がカメラの前に立つらしく、画像がたびたび見えにくくなっていた。
ー事件が起こった直後に報道がいるなんて、警察よりも見つけるのが早かったのか?
事件現場を確認すると繁華街の一角で15時頃起こった殺人のようだ。
ー被害者が男なのは初めてだな。
被害者は男性で医師だと流れてきた。
ー私の方の事件に関係ないかもしれないけど、こんなに頻繁に人が殺されているならぐずぐずしていられない。
大体、自分をつけている尾行の正体もまだつかめていないのだ。
ーどこから始めるか・・・道筋がまだ見えないから、手当り次第の方がいいかもしれないな。
TVに写る殺人状況を見ながら、慎重に考えを巡らすヴィンセントだった。
昨日オフィスでおとなしくしてろと言われたセフィロスだったが、彼が素直に聞くはずもなかった。
暇を持て余してオフィスのTVをつけたら、いかにも連続殺人の続きです、のようなニュアンスで繁華街の医師の殺人事件が報道されていた。
ーうちがこの事件に係わっているのが漏れたら、組織の運営にも影響するかもしれないな。
椅子に座り直して、報道を真剣に見る。
セフィロスが大人しく(真剣に!?)TVを見ているのを見た秘書さんが、さり気なくコーヒーをデスクにおいた。
極秘とはいえ組織がこの連続殺人事件に関わっていて解決まで手間取っていると、クライアントはうちにあまりいい印象は持たないだろう。
コーヒーに口をつけて、事件に関するTVの報道と新聞とWEBの記事をざっくり検索する。
ーうちは中立組織だし、今まで関係の深い顧客は内情が分かるだろうけど。念には念を入れとかないとな。
セフィロスは本腰を入れて解決すべく、一番目の事件から入手できた情報を元に洗い出しを始めた。
「というわけで、俺はこの連続殺人事件の担当になるからよろしくな。」
リーブが気の進まない会議がやっと終わって、オフィスに戻るとヴィンセントの席にセフィロスがいて、いきなりリーブに滔々と演説(!?)をして話を締めくくった。
「あなた、そんなに私に言い訳しなくっても普通にヴィンセントを手伝ってるでしょう?」
リーブが疲れているのにいいかげんにして下さい、といった様子で言った。
「リーブ、分かってないな。」
セフィロスがにやりと笑ってTVをつけた。
画面が写って、昼間のワイドショーで第一報が流れた例の殺人事件の憶測が色々と推測されている。
「こんなに話題になっている事件に組織が関与してると分かったら、多かれ少なかれ俺たちの組織に関わっている関係者は色々考えるだろ。」
「思ったよりも話題性に富むみたいだとは思っていましたよ。」
リーブが自分が会議をしている間に一人殺されているのを知って、真剣に画面を見て
言った。
「だから、組織もちゃんと対策をたてていると示す為に、一番できる上に露出もオフィシャルに多い俺が取り組むわけだ。」
なるほど。と相づちを打つリーブ。
「で、俺がヴィンの調査を一緒にするという結論になるわけ。」
「はいはい。分かりました。私があなたの反対をするはずはないでしょう。」
リーブがまあ、そこに結局は行きつくんですよね、とあいずちを打つ。
「だから、どっかから変な横やりが入ったら、リーブはそっちの対応をよろしく。」
「ええっ!」
リーブが予想しなかった頼みごとに椅子から立ち上がりそうになった。
「あなた自分の部署はちゃんと回るようにしてきたんでしょう。」
「まあ、書類は秘書に実技はザックスに頼んではきたんだが・・・」
ほら、全然予期してない所からクレームってこともあるだろ、とセフィロスが話を続ける。
「まあ・・・そんなことが起こらないに越したことはありませんがねぇ。・・・・・・セフィロスの頼みじゃ致し方ないでしょうね。」
分かりました、とリーブが答えると、悪いな、とセフィロスが返した。
「ところで、ヴィンが預かってるガキはちゃんと学校に行ったのか?」
「それは・・・まあティファに聞いてみて下さい。」
応接室から出ていきながら、話しているとクラウドが机に向かって書類の束の前で仕分けしていた。
「クラウド、頼むぞ。時々見に来るからな。」
クラウドがセフィロスに手を振って答える。
「さて、私もこの中から役に立つ情報を探しますか。」
セフィロスが出ていった後、リーブはクラウドの正面に座って一緒に書類の束に取りかかった。
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