赤銅隊長の愛撫はいつも、その手を首筋から滑らせて胸元に触れるところから始まる。
「ん・・・」
シャツの上からの時もあるし、軍服を脱がされ、肌がむき出しにされてからの時もあるが、
キスをどこかにされて、その次に胸の先に唇が移動し、もう一方は人差し指と中指に挟まれて、
愛撫される。
「あっ・・・はぁっ・・・」
今日はシャツまで脱がされてから、愛撫が始まった。
新宿特区に来る用事があり、その時に隊長がいれば挨拶をして、
大抵その夜に身体の関係を結ぶことになる。
泉の部屋がある官庁舎で、いつものように、キングサイズのダブルベッドに押し倒されて、
足の間に身体を滑り込まされ、今度は左の胸の先を舐められて、あっ!と声が出る。
ちょっと足を伸ばせば花街があるのに、何でこの男があえて自分を選んでいるのかは分からない。
ーこんなこと、ケンには言えねぇよ・・・
泉が下半身に手を伸ばしてきて、触れられるままに、身体の反応を彼に見せた。
最初、赤銅隊長に誘われるままに、自宅に呼ばれた時はどんな意図があるのかも分からずに、
ただ、この男の誘いを断るとまずい事になる、と直感が知らせて断れなかっただけだった。
都庁のシステムメンテの仕事が終わり、渡された自宅の鍵でー鍵を渡されては、それを返すまでは八王子区に帰る事もできないー隊長の部屋に入り、勝手に冷蔵庫のコーラを取り出してダイニングテーブルの椅子に座って落ち着いて飲んでいたら、隊長が帰ってきた気配がした。
「わりぃ、勝手にやってるぜ。」
とペットボトルをテーブルにおいて、彼の方を向いたら、いきなり顎を取られ、唇を重ねられる。
「!?」
そのまま、力強い腕で身体を椅子から抱き上げられ、予想外の状況に油断していたら、重ねた唇から舌を割り込ませられ、んんっ!と抵抗しようとして、気付くと寝室に運ばれて、とさっとベッドに降ろされた。
「た、、隊長何を!?」
と、まだ状況が把握できていない藤丸に、赤銅隊長もベッドに腰を降ろし、藤丸の身体の上に覆い被さるように、身体を近づけてくる。
「お前も気持ちのいい事をするんだから、安心しろ。」
なっ!、と隊長の頬をひっぱたこうとして、簡単に手を取られた。
「どっちにしても、この状況で逃げようとしてもお前には不利になるだけだ。」
その、左手首に唇を這わされて、背筋がぞくっとする。
どっちにしても、隊長に本気で襲いかかられたら、非力な自分が逃げるのは不可能だとは分かっていた。
ーくそっ、最初に断っていれば・・・。
しかし、もう後戻りは出来ず、少し、顔が青ざめかけている藤丸に、赤銅泉は優しくその目元に唇を触れる。
「俺は、きれいな顔の奴が好きなんだ。乱暴にはせん。安心して任せろ。」
何でオレが、と思っていたのが少し疑問が解ける。
高級コールガールだった母親似の容姿に、足下をすくわれたわけだ。
ーくそっ、女ってのはどいつもこいつも、オレの邪魔ばっかりしやがって・・・
赤銅隊長が自分の肩を掴み、ベッドに倒そうとしてくるのを一度止めようとその手を掴み返す。
「隊長命令、だと思っていいんだよな。」
眉が上がって、泉の顔を睨みつけて聞いてきた。
「命令したら、何でも言う事聞くのか?」
掴まれた手を顎に移動させて、藤丸の口元で泉が囁く。
「んなわけねーだろ。」
自分の顎にかけられた手を除けて、泉から顔を背ける。
くっと泉は喉の奥で笑った。
「なら、大人しくしているんだな。」
腰を抱いて引き寄せられ、耳に唇を這わされた。
その感触に、ぴくん、と藤丸が反応したのが感じられて泉が彼の顔を見ると、目をぎゅっとつぶり、眉を吊り上げて眉間にしわを寄せている。
もう少し近くに抱き寄せ、耳に舌を入れ、そのピアス近くに唇を這わせ、愛撫する。
「ん。。。」
ぴちゃぴちゃと、舌先が耳の際を這い回るのに、彼は少し身体を震わせ、自分の腰に回されている泉の腕を軽く掴んだ。
「はっ・・・・」
息を軽く吐き出したのを見て、泉は彼が反応を始めたと見て取り、まず、軍服の上着に手をかける。
「あっ・・・」
その黒服を泉が引き下ろして身体から離れシャツ姿になった時に、藤丸は閉じていた目を開けて、泉を見上げた。
その表情は眉が寄せられて、少し不安そうな色が目に浮かんでいる。
「怖いか?」
彼のネクタイをしゅる、と解きながら、その口元に顔を寄せる。
ダイレクトに自分の目を見つめられて、藤丸は何も言わずに目を伏せたが、その手はネクタイを取り去る泉の手を止めるように、また腕を軽く掴んだ。
「初めてなのか?」
ついばむように、顔を寄せたまま、その唇を自分ので触れながら、流れるように彼のシャツのボタンを外し、脱がせる前に、シャツの間からのぞく、その肌に触れる。
「あっ・・・」
と、泉の手がその胸の先に触れた時に、藤丸はぴくん、と動き、上げた髪が微かに揺れた。
「その、、、変なんだ。」
泉の腕を掴んだまま、藤丸が目を上げて泉に小さい声で呟くように言う。
「た、、隊長がオレに触っている所が、、、いつもと違って・・・」
いつも、都庁で目にする時には見た事のない、困ったような少し戸惑った表情で、言葉を続けられ、
泉は彼が自分よりもかなり年下だった事を思い出す。
言動がガキっぽいのはともかく、彼の仕事ぶりは大人も舌を巻くプロフェッショナルな出来なので、
つい自分と同じ目線だと勘違いして話してしまう事も多々あるのだ。
「変、というのは、こういうことか?」
「あっ!!」
彼の胸の先を両手で触れて、そこが固く尖るまで愛撫すると、藤丸は眉を寄せ、目をぎゅっとつぶって、さっきよりも大きく反応した。
泉の腕を掴み、愛撫に震える身体のせいで彼の上げた髪がさっきより大きく揺れる。
藤丸の問いには答えずに、触れていた耳から首筋に唇を這わせ、ざらざらしたあごひげを彼の柔らかい肌にすりつけた。
シャツの下にある、彼の細い身体を撫でながら、唇は首筋を降りて彼の喉を触れ、その息を止めるようにそこをついばむ。
「はっ・・・あっ・・・・」
泉の頭を顎の下に入れられて、藤丸は顔を反らせ、少し掴みにくくなった腕の代わりに、顔の側にある泉のくせのついた、固い髪に指を絡め頭を抱いてきた。
「変、というのは、嫌な感じなのか?」
彼の喉に舌を這わせた後、そのまま唇を彼の身体のその下の鎖骨に触れさせる。
「んっ、、、嫌、、、っていうより、隊長が・・・触ったとこの肌が、んっ・・・ざわざわして・・・」
眉を寄せて、だんだん自分の愛撫に素直に反応してくる彼の様子に、どういう事か教えてやろうと、彼の下半身に手を伸ばした。
「!?んんっ!」
いきなり、他人には触れさせない場所を軽く掴まれて、藤丸は顔を赤らめて泉を睨みつける。
「な、、何を。」
「お前の身体が気持ちよくて、ここが反応している。そういうことだ。」
カッと更に顔の赤みが増して、自分の腕からすり抜けようと身動きするのを止め、自分の頭を掴んでいる手を外しその手に指を絡めつつ、シャツをするりと脱がせてベッドに押し倒した。
くそっ!、と舌打ちして暴れようとするのを、指を絡めた手をベッドに縫い止め、バタつく足の間に自分のを滑り込ませた。
「オ、オレで、何をしてぇんだよ。隊長。」
簡単に押さえつけられて、それでも睨みつけて来る藤丸を、余裕の笑みで見下ろす。
ふっと笑うと、察しが悪いのか、それとも本当にその手の事を知らないのかと思い直して、指を絡めたまま彼の身体に覆い被さった。
「俺もお前も気持ちのいい事だ、と言わなかったか?お前は初めてのようだから、特別優しくしてやる。」
くっ、と睨みつけてくる目を面白そうに見てから、泉は顔を下げて彼の胸に唇を這わせた。
「んっ・・・・あっ・・・」
何度もその突起を唇と舌で愛撫を施すと、だんだん絡められている指から力が抜けて、藤丸の甘い息づかいが漏れてくる。
胸への愛撫はそのままに、彼の腰のベルトを外し、静かに引き抜く。
「あっ・・・隊長・・・そ、、んな・・・」
気付かれないようにそっと外したのに、藤丸が分かって下半身を脱がそうとするのに抵抗してくる。
彼の、ウエストに掛ける手を押さえようとする手に、口づけると、びくっとして、すっと手を引き、その顔を見上げると泣きそうな顔で泉を見つめている。
「悪いようにはしない。」
藤丸の頬に手を伸ばし、安心させるように撫でた後に、一気に彼の下半身をむき出しにした。
藤丸の目がどうする気だ、と睨むように自分の目を見つめ、ふっ、と笑った後に、彼の足を開き、その間に顔を埋めた。
「あっ!!やっ!!」
初めて自身を口に含まれて、藤丸が泉の頭をどかせようと、悶える。
泉の口は、それを促そうと巧みに舌と口を動かし、ただでさえ口でされるのは初めての藤丸は、刺激が強すぎてああっ!!と感じさせられて高い声を上げる。
「た、、、隊長・・・は、、離せっ!」
すぐに達しそうになって、泉の頭を自分の身体から外そうと、息を切らせながらその頭を掴んで、押し返す。
「あっ!・・・・やっ!!」
と、口に含まれているところが刺激されて、身体がびくん、とした。
そのまま彼の口は自分のに吸い付き、達した後のそれが飲み込まれる。
「なっ、、、。」
泉が足の間から顔を上げ、口元を拭っているのを、藤丸は信じられない、という顔をして見つめた。
シャツを脱いで、もう一度彼に覆い被さる泉に、
「てめぇ、、、これが目的なのかよ。」
と少し怯えた目で睨む。
「最終的には、違うな。」
と泉は彼の身体を抱くように近づき、左手をその背中から下へと滑らせる。
彼の身体に口づけながら、割り込ませた足で、達したばかりの場所を触れると、んっ・・・あっっ・・・と、彼の声がまた漏れてくる。
背中を滑り降りた泉の手が、彼の後ろの、人に触れられた事のない部分を触れる。
予想外の感触にびくっと身体を震わせた藤丸の手を取って、泉はそれを自分自身のところへ導いた。
「ま、さか・・・。」
「察しがいいな。」
無理、ぜってー、と呟いて泉の下から抜け出ようとして、簡単にその動きを抱きとめられた。
「た、隊長命令でも、無理だから。それ。」
と言い放って、また、無理矢理泉の腕から逃れようとして、暴れる彼の頭を抱くと緩んでいた髪を上げていたゴムが解けて、バサッと長い黒髪が彼の肩にかかった。
その横顔に、泉は少しはっとしたが彼から逃れようとしている藤丸は,その表情に気付かなかったようだった。
なかなか自分を離さない泉に、藤丸は言葉を続ける。
「隊長、今からでいーから、女呼べよ、電話かなんかで。ぜってーそっちの方が、気持ちいいから。」
「この状態で、か?」
自分の下半身を彼に押し付けて、うっ、と言葉が詰まる。
「そ、、、それは。オレも、、うかつだった、て言うか・・・」
狭いスペースで何とか泉から目を反らせ、何を言い返そうか慌てている様子に、思わず口元が緩む。
最初の緊張がすっかり解けた様子の藤丸に、もっと根本的に、今の状態を知らない女に見られる事に戸惑いはないのかと思ったが、どうもその辺はすっかり意識から抜け落ちているようだった。
「だから、隊長、オレとしても出来るだけのことは、ま、女が来るまでには・・・。
あっ、でも誤解するなよ。何でもするってワケじゃ・・・」
「藤丸。」
何を言うべきか、支離滅裂になりつつある彼の言葉を一度止めた。
解けた髪を手に絡ませて、泉は彼に圧迫感を与えないように気をつけながら、顔を近づけてきたのに、彼は口を閉じた。
「か、顔近ぇよ。隊長。」
「泉だ。」
こんな状態で、顔が近いもないもんだが、と思いつつ彼の黒髪を指に絡ませながら言った。
「?泉?」
ポニテが解けて、つり目が少し目立たなくなり、きれいな顔立ちが増した顔が自分を見上げてくる。
「藤丸、寒くないか?」
「あ、うん。」
と何も付けていない自分の身体を見て、答える彼に、バサッとベッドのシーツをかけた。
身体を起こして、それを身体に軽く巻き付ける彼の横に寄り添って、泉はベッドに寝転がる。
「泉、好きだ。」
「ん?」
隣でぼそっと声がして、シーツをいじっている藤丸が反応した。
「言ってみ。泉、好きだ。」
「はぁ!?」
なに寝言いってんだ、という顔で泉の顔をあきれてみてくる。
「ほら、出来るだけの事はやるんだろ?」
あーー、と自分が言った事が続いていたのか、と思い出し、藤丸は片膝を折って腕をそこに載っけて、ため息をついた。
「あーー、えっと、はぁ。。。いずみ、スキダ。」
気のない様子で、上の方を向いて言った。
「萎えるな。」
「ちょうどいいじゃねぇかよ。」
にやっと笑って、ざまぁ、という表情で見てくる。
「ふん、いいのか?そんな事言って。もっと別のリクエストにするぞ。」
泉が彼の身体に手を這わせてきて、どこに触れようとしているのか分かって、
藤丸が急いでその手を止める。
「わ、分かった、隊長!それで手を打つから。えーーっと・・・ちょっと待て。」
と、その手を掴んで少し息を整える。
思ったよりも、大分間があるので、どうするつもりだ?と泉は藤丸の表情を観察した。
その顔は、少し考え込んでいるようだったが、軽く息を吐くと、泉の手を掴んだまま身体を側に寄せてきた。
寝転がっている泉の、上半身に覆い被さるように目を見つめてくる。
俯いて自分を見ているのに、彼の髪が泉の身体に微かに触れてきて、泉は空いている方の手でそれに触った。
ーこんなシチュ、あったな。
いつだったか、と思い出しながら何気なく藤丸の髪に軽くキスしたら、顔に手を触れられて、彼の方へぐいっと顔を向けさせられる。
「い、泉、好きだ。」
紅い目が少し潤んで、自分を見つめながら言葉を発したのに、思わず、彼の頭を抱き寄せた。
「んっ!!」
身体を引き寄せられ、唇を塞がれ、予想外の泉の反応に、がくん、と藤丸の身体は彼に抱き寄せられる。
ーちがっ!隊長!
身体に絡ませたシーツを簡単に脱がされて、泉の手はまっすぐに、彼の、自分が入りたいところへ降りて行く。
藤丸の舌に自分のを絡ませながら、下のそこを指で触れ始めると、んっ!んんっ!と彼が抵抗してくるのが分かった。
それでも、中に入ろうと指に力を入れたが、さすがに無理らしく、泉は潤いを求めてその手を顔の側に戻す。
「藤丸。」
やっと唇を離してくれた泉に、藤丸は焦って早口で言う。
「違うんだ、誘うつもりは全然、、、」
はぁっ、とやっと自由になった口を大きく開けると、泉は自分の指を入れてくる。
「んっ・・・」
口の中を指でまさぐられて、思わず舌を動かすと思った通りの反応だったらしく、もっと指を舌に絡めてくる。
んっ、と抵抗も出来ずに、泉の望むままに彼の指に唾液を十分絡めると、指を引き抜かれ、その唇を彼ので閉じられた。
「んんっ!!!」
泉の指が、すぐに自分の双球の奥に入り込み、中に入ろうとしてくる。
ーやっ!だめっ!
場所をずらそうにも、腰をしっかり抱かれていて、入ってきた感触が分かったとき、思わず泉にぎゅっと抱きついてしまった。
泉が唇を離すと、藤丸は、その、中に入ってくる感触が気持ち悪いのか、身体を震わせて、やっ!やめっ!と小声で言いながら、泉にしがみついてくる。
「藤丸、力を抜け。」
ゆっくりと、自分に覆い被さっていた体勢を変え、彼が楽になるように身体をベッドに倒してやる。
強ばって、震える身体を開かせ、胸の先に舌を這わせ何度も刺激すると、それに反応する甘い喘ぎ声が漏れてきた。
しがみついていた手が力が抜けてきたのを感じて、胸を愛撫しながらさっき達した下半身のところに手をかける。
「んんっ!」
また、濡れてきているのをそれを手に取り、後ろの痛みがないようにそこにぬりつけた。
「はっ!」
泉のそれが、太ももにあたっている。
ーあんなの、入るわけ・・・
と、身体がびくん、と中の泉の指の動きで反応した。
「あっ!んっ!」
と繰り返される動きに、中の質量が少し増したように感じる。
「藤丸、ここが濡れてるってことは、、、」
胸の先から口を離して、泉が彼の耳の側に囁く。
「気持ちがいいってことだ。」
前を泉に触れられて、水音がぴちゃぴちゃ聞こえてくる。
ーオ、オレどうなっちゃってるんだよ・・・
泉にいいように、身体を触られて、喘がされ勝手に顔が熱くなって行くのを感じる。
首筋にまたキスを落とされ、あっ、はっ、、、と声を上げ、泉の指の動きが促すように、早くなってくる。
「ああっ!」
とまたイカされて、藤丸はそのキングサイズのベッドの上に、力なく横たわった。
すぐに身動きできない自分の身体の横で、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえて、何をされるのかは気付いたが、今は避ける余裕がない。
泉にされるままに、足を開き、覆い被さられて耳元に何か囁かれたのと一緒に、泉自身が入ってきたのがわかった。
「っ、ケン・・・」
その、自分の中に少しずつ入って来る時に、思わず口をついて出た言葉に、自分でもびっくりして口に手をあてた。
「ケネス区長にも、こうして欲しいのか?」
その言葉に、首筋から顔を離して、泉が聞いてきた。
「ち、ちがっ!」
腰を動かされて、んっ!と声が出る。
「あいつのことだ。お前が頼めばきっと優しく、してくれるぞ。」
「なっ、ケンとはそんなんじゃ!」
キッと睨みつけてきたのに、泉は顔を近づけて口元で言う。
「泉だ。」
動きが止まって、じっと藤丸の目を見てくる。
「た、いちょう・・・」
「今、ここにいるのは泉だ。」
間違えるなよ、とまた愛撫が再開され、藤丸は赤銅隊長の身体に手をかける。
「あっ・・・いずみ・・・」
愛撫に身体が反応する度に、泉の名前をつぶやく藤丸の口に舌を絡ませてキスを施し、乱れた黒髪に指を絡ませ、泉は彼の中で果てたのだった。
ー何であんとき、ケンの名前を・・・
事が終わって、最初の時の事を藤丸はふっと思い出した。
今まで、赤銅隊長と何度身体を重ねたか分からないが、ケンとはそんな事になった事は一度もない。
ベッドの上で身体を起こし、少し物思いにふける。
隣にいる泉は目を閉じて横になっているが、眠っているかどうかは分からなかった。
ーケン、オレがこんな事になってるの知ったら、どう言うかな。
でも、きっと責める事はないだろう、と思う。距離を取られる事はあるかもしれないが・・・。
「今日は泊まってけ。」
まだ眠っていなかったらしく、泉が藤丸に声をかけてきた。
「言っとくけど、今日はこれ以上は付き合わねーからな。」
復活した憎まれ口に、ふっと笑って、彼の腰を抱き寄せてベッドに身体を倒させた。
顔を自分の方へ向けさせて、じっと目を見て口を開いた。
「明日、ケネス区長がこっちに来るからな。送ってもらえ。」
頭を撫でられ、きょとん、とした目で見てくる。
「別に、一人で帰れるぜ?」
「時にはいいだろう、古馴染み同士でゆっくり話をするのも。明日、ケネスの仕事場まで送ってやる。」
「そりゃ、どーも。」
さっき思っていた事を見透かされたような泉の言葉に、軽く返事をする。
ころっと、泉の腕から抜け出て、彼に背を向けた藤丸は、疲れていたのか5分程すると安らかな寝息が聞こえてきた。
彼が眠っている事を確かめて、そのベッドに広がる黒髪を手に取ると、泉は何度したか分からないそれにまたキスを落とす。
最初は軽い気持ちで、味見をしてやりたい、と思って半ば無理矢理誘っただけだった。
しかし、その時に見た髪を解いた横顔が、昔の懐かしい記憶に重なり、肌を重ねる度に自分の気持ちが少しずつ彼に執着してきているのを感じる。
不思議なのは、大して自分に特別な好意があるともみえないのに、藤丸がいつも誘いを断らないことだ。
ー俺にとっては好都合だがな・・・
何かを特別ねだるわけでもなく、触れている様子から自分としているのが特別気に入っている、という感じもない。
多分、この繋がりは切ろうと思えば、すぐに跡形もなくなってしまうような、儚い関係なんだろう、と思う。
でも、自分の執着が彼にある限りは、簡単に手放す気にはなれない。
髪に手を絡めたまま、寝入っている彼に顔を近づけ、気に入っているその横顔に口づける。
そして、背を彼に向けて身体を横にすると、まだ眠れない夜の時間を、あてどもない思考を巡らせようと、目を閉じるのだった。
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