玄関をカチャリと開けて、ヴィンセントはいつも通り仕事から帰ってきた。
午後20時頃。時間はいつもよりも少し遅いかもしれない。
ー今日はPCばっかり見てて目が疲れたな。
ソファのひじ掛けに寄り掛かってふわりと寝転がった。
夕食何を食べよう・・・と思って目をつぶった瞬間、ドアの開く音がして
「遅かったな、ヴィン。」
とセフィロスが姿を現して同じソファに腰を降ろした。
びっくりして身体を起こすヴィンセント。
「今日は招待した覚えはないぞ。」
「この前合鍵作っていいかって聞いたら、いいと言ってたじゃないか。」
なので早速使わせてもらった、と言うのを聞いて
ー言ったかも・・・不用心だしセフィだったら(用心棒としては)心配無いだろうと思って。
しかもさっき玄関開けた時鍵使わなかったよな、と思い出し、自分の読みの甘さに思わずため息をついたヴィンセントだった。
「夕食は?食ったのか。」
セフィロスに話しかけられて、サンドイッチを仕事中につまんだからそんなに腹は減ってないな、と答えると
「ふうん・・・そっか。」
とにやりと笑う。
何となく身の危険を感じて、
「セフィロス、今日はどうして家に来たんだ。」
と当たり障り無さそうな話題を振った。
「会いたくなったから来ただけだ。」
何を今さら、という感じでセフィロスが答えた。
「俺は明日から2日休みだからな。ゆっくりさせてもらうぞ。」
ちゃんと留守宅も守ってやるから安心しろ、と言う彼に、これはありがとうと言うべきなのか?と微妙に思ったヴィンセントだった。
「2日もあるんだったらこんな所に居ないで、ちょっとでかければいいじゃないか。」
「だから、家にいてもしょうがないからちょっと出かけたんだが?」
セフィロスがヴィンセントの方へずいっと身を寄せて、さりげなく髪をさわる。
ーま、まずいかも・・・
と思い、ソファを立とうとする直前にしっかり腕を絡め取られた。
「逃げるなんてずるいぞ。」
「身の危険を感じたら逃げるのが当たり前だ。」
お前は野生動物か、とセフィロスが言って腕を引っ張って再びヴィンセントをソファに座らせた。
不満そうなヴィンセントの腰をしっかり抱いて、セフィロスはにやにや笑っていた。
「何だよ、セフィ気持ち悪いな。」
ヴィンセントがセフィロスのにやけ顔を見て不愛想に言う。
「別に。ただ、何されると思ってたのかなぁと思っただけだ。」
セフィロスはヴィンセントに顔を近付けて、何して欲しいんだ?と耳もとに囁く。
ー・・・ここで切れたら、これから2日間絶対セフィのいいようにされる気がする・・・
頑張れヴァレンタイン、と自分に言い聞かせてちょっと間が空いたが、いい考えが浮かんだらしく、そっぽを向いていた顔をくるっとセフィの方に向けてにっこり笑った。
「セフィ、美味しいコーヒーが飲みたいな。」
会社で仕事をして疲れたからちょっとは寛ぎたいんだよな〜と言いながらセフィロスの頬に手を当てる。
「もちろん、煎れてくれるだろ。」
さらに(エアリスに犯罪ものと言われた)笑顔(普段より+20%増)でセフィロスににっこり頬笑みかけて頼む。
ヴィンセントに惚れているセフィロスが断れるはずもなく、しょうがないな・・・と言いながらソファを立った。
ー良かったぁ・・・取りあえず成功。
仕掛けた本人もどきどきだったらしく、セフィロスがキッチンへ消えてから表情がゆるんだ。
「濃さはどのくらいがいいんだ。」
と聞いてくるセフィロスに、レギュラーでと答えるヴィンセント。
セフィロスがコーヒーを持ってくる間に頭の中で作戦を練っていた。


彼がコーヒーを持ってきてくれてヴィンセントは、ありがとう、と言ってゆっくり飲み始めた。
残念ながら、コーヒーを飲んでいる間は危ないのでヴィンセントに絡むわけにも行かず隣に座るセフィロス。
「セフィ、うちに2日間いるんだよな。」
ヴィンセントがカップを持ちながら、セフィロスに聞く。
「そのつもりだ。」
即答するセフィロスだが、ヴィンセントの意図を図りかねて彼の顔を見る。
「居座る気なら、それなりのことをしてもらわないと。」
とヴィンセントがまたにっこり笑って、食事の支度とか掃除とか宜しく頼むよ、と言った。
「俺は休暇中なんだぞ。」
ちょっと抗議したセフィロスに向かって、
「私は仕事をしているんだ。」
と言い返すヴィンセント。
できないんなら出て行ってもらおうかな〜と呟くヴィンセントに、分かりました!と答えるセフィロスだった。
「じゃあ2日間宜しく。」
とまたしても(犯罪ものの)ヴィンセントの笑顔を見て、いいように丸め込まれた気もするが・・・こんなのでもいいかな、と思ってしまったセフィロスだった。
「明日の朝食から宜しくな。卵料理にするなら私はターンオーバーの目玉焼きが好きだから。」
じゃ、おやすみ、と言ってとめる間もなくさっさと寝室に行ってしまったヴィンセント。
ーはめられた・・・
絶対下心があって来たセフィロスだったが、まんまとヴァレンタイン家の家政婦になってしまった瞬間だった。

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